ここから下巻にはいります。
ドイツ
(画像:ABroad「フランクフルト旅行」のページから引用)
下巻に入ると上巻までの流れとちょっと変わってきます。
フィンランド、日本、チリ、インドネシアはそれぞれある大きなきっかけが危機となっていました。
ドイツの場合、2つの大戦と戦後の分割統治など、1つのきっかけというわけではない、違った危機に対峙していたことがこの本からわかります。
我々が住んでいる日本と決定的に違うのは、四方八方から攻め込まれる環境にあるということです。
逆に言えば攻め込むことも可能ですが、その幻想にとらわれて世界を戦場に巻き込んだのがヴィルヘルムII世とヒトラー。
2つの大戦で多額の賠償金、東西分裂統治という大きな試練にたたされていたドイツが立ち直ったのは、
- 自らを裁く公正さ
- 世の中の流れを的確に把握しその流れにのる賢さ
が大きな要因だったとこの本は指摘しています。
当時そして現在の為政者によって、実際の出来事や思惑を脚色なく知ることは実に困難です。
この日本においてもそうだと思います。
都合のいい解釈をしてその解釈を押し付けているところがない、とは感覚的に思えないのです。
自らの過ちを認め謝罪し、時流にのってきたこの舵取りは、”いさぎよさ”とドイツという国の強さを感じました。
オーストラリア
(画像:東山動物園ホームページから引用)
この本を読むまで実はオーストラリアの歴史についてはあまり良く知りませんでした。
それだけにイギリス連邦の一員としてスタートし、そのイギリスの庇護からの脱却におけるオーストラリアの苦悩がこの本からうかがい知ることができます。
自分たちはイギリスの一部であり、白人イギリス人であることがここオーストラリアに住むにふさわしいのだ、そういう歴史だったようですね。
この白豪主義は南アフリカのアパルトヘイトとなんら変わらない思想なんですが、実は我々日本人だって似たような時代を長く送っていたんですよね。
鎖国を200年以上続けてきたわけだし、幕末は攘夷がまかり通っていたわけだし、外国人がいることに違和感感じる人多いし、ラグビーの日本チームで「外国人多いよね」って言ってる人少なくないし。。。
「ナショナル・アイデンティティ」がこの国の危機脱出に大きな影響を与えているという視点はこれまで持ち合わせていませんでした。
ある事件をきっかけに危機に陥ったのではなく、断続的にある状況が続くことで危機に対峙してきたという姿は、まさに今の日本の少子高齢化、エネルギー問題に重なると感じ、他人事の話とは思えませんでした。
日本とアメリカの今後
(画像:NEWSポストセブンより引用)
これまでは”過去”の事例を取り上げていましたが、後半は日本で1章、アメリカで2章を費やして”現在”の危機について取り上げています。
日本で言えば少子化、高齢化といったおなじみの課題もありますが、日本政府としては否定する立場にある第二次世界大戦における日本の振る舞いに対する態度や行動、捕鯨を始めとした水産資源の乱獲といった、我々日本人にはキツイ内容も含まれています。
この見解については政府関係者を含め多くの人が異論を唱えるであろうことは想定できます。
事実がどうだったのかは、正直なかなか知ることは難しいと思っています。
ですが、現在の周辺国からの評判や国内の教育内容、展示内容などをみるにつけ、著者が本書でドイツと比較しておりましたが、著者が言っていることは必ずしも見当違い、誇張、事実の歪曲とは思えない印象を持ちました。
国家と個人とは違うものですが、著者がいっているように個人の危機と国家の危機はパラレルにみることができるとすると、コミュニケーションの問題が大きいのかもしれません。
こちらが伝えた”つもり”でも、相手は伝わった”と思えていない”ということは、個人間ではよくあることです。
これを「理解できない相手が問題だ」と言ってしまった段階で、問題解決はグッと困難なものになってしまいます。
”伝え方”に工夫はなかったのか、そういう問いかけがあってもいいのでは、と。
そんな性質の状況が起こってはいないだろうかと、気になります。
アメリカについては4つの課題を上げていますが、最も著者が重視していたのは「妥協しなくなったことによる民主主義存続の危機」でした。
二大政党が機能していたのはまさにこの「妥協」があったからだと。
これらの章はアメリカの国情について少し理解するのに助けになるような内容かと思います。
徹底的な”個人責任主義”がベースとなって、その結果富を得るものと得られないものとの差が生まれ、拡大し、”格差”というものがどんどん大きくなってきたアメリカ。
それでもアメリカは世界で最も富める国であり、他国に比べると格差社会のトップに君臨している国でもあります。
強いポジションにいる者は自らの力を弱めるようなことはしません。
アメリカが世界のトップであることは、いろいろな功罪があり評価することはできないのですが、せめて功罪の"罪”の部分が少しでも良い方向に向かって欲しいと感じます。
これは日本においても同様です。
現在の危機について扱っているだけに、深い課題です。
世界の危機
著者は今の世界が直面している最も大きな危機として「核兵器」「気候変動」「化石燃料」をあげています。
いずれの課題についても賛否両論あるデリケートかつナイーブな問題です。
既得権益者によるバイアスがますます強くなっているという印象のあるアメリカ、資源の多くを海外に依存し多大な消費をしている日本、覇権奪回を目論むロシア、世界のバランスで重要なポジションにいるEU、強大な力を備えてきた中国・・・
どの国にも関連があり、影響力を持っていると思うのですが、特にこれらの国々のイニシアティブの影響力は大きいと思います。
アフリカ、中東、中国・日本を除くアジア、南米、これらはむしろこういった経済大国の動向から受ける影響のほうが大きく、世界全体よりはまず自国優先をせざるを得ない国が多いのではないかと。
国家から個人へぐ〜んと視点を手元に戻しますが、危機や課題があってそれを乗り越えることで経験値があがり適応力もアップし、自分自身がよりよい人生を送る方向へ少し進めていけるような感覚を、会社を辞めてから特に感じています。
退職して起業して、シェアハウスの管理運営という仕事を始め、今も続けることができていますが、その間でさえも、調子に乗って恥ずかしい思いはしているし、駄目な結果をもたらしているし、チャンジマインドもたくさんしてきています。
そのたびに「こうあるといいな」とか「こうするともっといいかも」と考え、今の自分の思考や行動につながっています。
自分自身は危機や問題に直面し、それによって自分の強み・弱みを気付かされ、考えて行動して乗り越えたことで一つ学んできた、と思っています。
危機や問題はそれ自体大変なことだけれども、自分の適応能力をあげていくという点では必要なことです。
国家においても危機が国力を高めるきっかけになるのでは、そんな印象です。
最後に
これだけの内容を完結にわかりやすくまとめた著者に、脱帽です(^^)
論文や記録文章などを調査する時間も余裕も気力もない私のようなものにとっては、この本は世界の状況、世界から見た日本を知る上でありがたい書籍です。
今回の読書会では本書の翻訳を担当された川上純子さんが一緒に参加してくれました(^^)
読書会メンバーのいわゆる”飲み友”だそうで、お忙しいところ時間をつくって参加していただけました。
ありがとうございました(^^)