今回の課題図書は「Life Span〜老いなき世界」でした。
一言で言えば「”老化”は病気だ」というもの。
我々はなんの病気もせず事故にも合わず、攻撃も受けずに生き続けるとやがて「老い」がきて、死んでいく、のが自然と考えています。
なのでどんなに頑張っても最高寿命というものは変わらない、せいぜい120歳近くが限度で、一般的には80歳前後くらいが寿命という感覚をもっています。
ところがこの著者によると、「老い」すなわち「老化」は病気の一種であって、健康寿命も伸びる前提で最高寿命はもっと伸ばせるはずで、それは人類の発展に大きく貢献する、らしい。
この本では「老化」というものを細胞分裂、遺伝子のレベルで説明し、正常に細胞が分裂しつづけるための処方についても提案しており、世界はもっと「老化」というものに対応していくべきだという主張を展開しています。
現在を生きている我々からすると、SF的な感覚を感じる人は少なくないと思います。
だって平均年齢が120歳とか150歳とかいっていて、6世代、7世代が同時に生きているかもしれない世界ってなかなか想像できないですもんね。
著者が指摘していますが、クローン技術からわかったことは、年をとった生物から採取した細胞でクローンを作成しても、そのクローンはいきなり年をとった状態ではなく、赤ちゃんの状態からスタートする、という事実は、細胞はいつでも新しく正常な分裂をすることができることの証拠と捉えることもできそう。
もし平均年齢が120歳とか150歳という世界が本当に来たらどうなるだろう、という想像をしてみるのは面白いですね。
人口:長生きする人が増えると死亡する人が減る、というイメージを持たれそうですが、でもそれは過渡期のことであって、結局はある程度の人が死んでいくので死亡率自体は下がらないのですが、長生きできるようになると出生率のほうが下がって最終的には人口は減る方向になるのではないかというのが私の予想。
自然界でも寿命が長い方が子供の数が減る方向なのがその根拠です。
身体の仕組み:身体のいい状態が長く続くことになると思うので、生殖能力も今より高い年齢まで可能になり、子供ができる年齢が上がっていくのでは。
年齢構造:長生きすることによって急いでおとなになる必要がなくなるので、子供でいられる期間が今より長くなり、社会人としてのスタート年齢も上がる気がします。
一方で高齢でも働ける体力があるため、労働できる期間は長くなるのですが、古い人が残り続けるため技術や社会の変化速度が今より下がっていくのでは、とも感じます。
究極はあの始皇帝が願ってやまなかった永久の命、というところに行き着くのかもしれませんが、たぶんそうはならないでしょうね。
この著者は「今考えられれている”限界”は技術、思考の発展で解決されていくはずで”限界”というものは存在しないはずだ」というスタンスに立っているように感じられます。
でもそれは私もちょっとまだ違和感感じます。
永久の命は現実離れしていますが、健康寿命が10年、20年と伸びることは喜ばしいことだし、そのための手段がこれから見つかっていくのかなぁ、という楽しみは感じます。
ゲノム操作についてはいろいろ倫理の面で深い考察を必要としますが、これまで我々が世話になっている食生活では多くの品種改良や養殖の恩恵をうけてきたわけで、広い意味では同じ世界のように思います。
いろいろ考えさせられる本でした。