今回の課題図書はこちら、「安いニッポン」。
バブル崩壊以降長期デフレが続いたことで、日本の物価が世界に比べてどんどん安くなってきている、という現状とそれによる弊害・課題について提起した本です。
GDPは未だ日本はアメリカ、中国についで世界3位ではありますが、購買力を表す指標としての1人あたりGDPは、2000年に世界2位になりましたが、2020年は24位です。
(データ元:グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイトから)
ただこの1人あたりGDPは、購買力が高いと言われる中国が64位だったりするので、そのまま購買力の実態と一致しない部分もある印象です。
最近では購買力を表す指標として「ビッグマック価格」が取り上げられますね。
コロナ感染が拡大する前はインバウンド需要が伸びて、爆買いなんていう言葉も流行りました。
これは日本で「安く」ものが買えるからでした。
この本では、このように日本が「安い」ことによる懸念について強く問題提起しています。
まずそもそも「安い」状態が続いている理由は「賃金があがらないから」としています。
(データ:全労連ホームページから引用)
これは実質賃金指数を1997年を100として換算したものです。
各国が100を超えている、すなわち1997年より実質賃金が上がっているのに対し、日本は90以下すなわち実質賃金が下がっていることがわかります。
これにより世界との格差が拡がってきているという現状がわかります。
本書ではコロンビア大学の伊藤教授の指摘として「安いことによる弊害」を次のようにあげています。
- 世界の高級品に手が出ない、海外旅行が高くなるといった個人の楽しみが減る
- 他国の高い報酬を求めて人材が流出する
- 海外大学の授業料が高く留学しにくくなり人材が育ちにくくなる
- 国際社会の競争力がそがれる
他にも他国に購買を奪われ商品・サービスを享受できない、といったことも指摘されていました。
では日本に住む人達はこれからどんどん不幸せになっていくのか、という視点に立つと、それはなんとも言えない、というのが私の感覚です。
読書会で参加者の1人が指摘していたのは「平均値の罠」。
平均値で表現するとさも代表値のように見えるのですが、ある一部の人たちに数値が偏っていたりすると、大部分の人たちの数値は小さくとも「平均値」としてはそれなりの数値になります。
アメリカでは所得格差が大きな問題となっています。
一部の人達に富が集中し、白人労働者のような中間層の所得が低いことによる不満がトランプ政権を生み出したのは記憶に新しいところです。
昭和の高度経済成長時代は安くて質のいい労働力を武器に輸出産業を軸に経済発展をとげて、敗戦のどん底から一気に世界の経済大国になった日本。
「安い」ことを武器にして成長してきた時代があります。
ただこの時代は「安い」けれども、所得は増え続け成長過程を謳歌していたわけで、所得が横ばいあるいは低下している今の状況とは異なります。
この本では所得が伸びず物価に対する目が厳しいため、供給側が価格を上げられない、という構図を指摘していますが、私はそこにはちょっと疑問を感じます。
読書会でも参加者が指摘していましたが、安い・高いというポジションではなく、むしろ経済の流通が滞ることの方が問題としては深刻な気がします。
日本でも日銀が金融緩和を数年に渡って実行していますが、「カネは天下の周りもの」に感じないのはどこかで詰まっているんじゃないか、とさえ勘ぐります(^^)
バブルの時代は収入は低くても借金してお金を使っていました。
借金をしてもいずれ返せるという楽観的な感覚があったからなんですが、これは経済が流通していたことでもあると思います。
まあ、これはこれで借金生活は問題ですが今よりは経済が潤っていた気がします。
水は高いところから低いところへ流れるのが自然。
一方人はお金の低いところから高いところへ流れるのが自然。
現実世界と格差が生まれてそれが開いていくことは現実問題として、多くの課題があると思います。
ただ何か違った視点があるんじゃないか、といったもやもや感がまだ残っている感じです(^^)