今回の読書会の課題図書はこちら、「家康、江戸を建てる」。
壮大な荒野であった江戸を、大都市に開拓した徳川家康と、大きな事業にからんだ家臣や技術者たちの活動を描いた時代小説です。
本文は文庫で482ページとそれなりのボリュームがありますが、5つの話に分かれているので、長さはあまり感じません。
江戸を大都市にするにあたって本書に取り上げられた事業はこちら。
そもそもが豊臣の「北条家の関東240万石を差し上げよう」から始まった江戸開拓。
今では想像できないほど当時は西高東低で、東国へ行くことはこの世の終わり、島流し的な位置づけにあったらしく、実際江戸時代には今の東京駅に東側(八重洲口)は海だったわけですし、利根川は今の江戸川近くを流れていて、埼玉県の栗橋あたりまでずっと湿地帯が続いていた荒れ地でした。
今で言えば釧路湿原みたいな状態だったわけですね(^^)
たくさんの川が東京湾に注ぐような地形だったから関東平野のような大きな低地が生まれたとも言えるでしょう。
とにかく川が今の東京と千葉の間に何本も流れて、しょっちゅう氾濫していたこともあり、まずこれをなんとかせにゃいかん、ということで着手したのが、「利根川東遷事業」。
これが第一話に登場します。
第二話では、貨幣発行から経済を制するまでの道のりを描いています。
第三話では、江戸に水を供給するシステムをつくるために、井の頭公園から水をひくべく大掛かりな上水道を建築します。
第四話では、江戸城の石垣にまつわる話。
この本を選書した友人は「文章がちょっとなぁ」という評価をしていましたが、私は全然気にならず、むしろ読みやすかったし、家康の洞察力の深さがうまく描写されているなぁ、という印象をもったくらいでした。
小説ではあるのですが、実は実際にあったんではないかと思わせるくらいに、なにか生々しさを感じさせるのは、題材と構図の影響なのでしょうか。
NHKのブラタモリでも、江戸について取り上げていた回がありましたね。
この本で私の一番のお気にいりは、第二話の貨幣の話。
秀吉がいなくなったとはいえ貨幣鋳造の主導権は豊臣家がまだ握っていた中、全国統一を果たすために不可欠な要素として、家康はこの主導権を徳川家が握る必要があると認識します。
でもそんな大事は簡単には手に入りません。
どうやってやるのか、その作戦が第二話を読んでいくうちに段々と明らかになりますが、まずその視点が見どころの一つ。
関ヶ原に勝利した直後に、武人から治世の人に瞬間的に変化する家康のすごさがもう一つの見どころでしょうか。
また第五話では、家康とその子秀忠との心の読み合いがなかなかおもしろいです。
一般には家康と比較され凡人扱いされ目立たない存在の秀忠ですが、徳川幕府を盤石にした功労者の1人でもあり、凡人どころか非凡な人物だったのでは、と思わせるような描写が印象的です。
できれば第六話、第七話とあってほしかったなぁ、と思わせる小説でした。