今回の読書会の課題図書はこちら。
1934年にドイツで刊行された「動物と人間の環世界への散歩」(邦題)の新しい全訳で2005年に岩波文庫から発行されました。
訳者の日高敏隆氏は、東京大学の理学博士で動物行動を専門にしていたそうです。1930年生まれで残念ながら2009年に亡くなられています。
環世界とは、本書の著者ユクスキュルが提唱した概念で、生物は固有の知覚世界をもっていて、世の中で普遍的と言われている(絶対的な真実と言われている)時間や空間でさえも、動物主体にとっては独自の時間や空間がある、という見方です。
たとえばある昆虫は特定の色しか見えないものが多いのですが、この昆虫からみた世界は我々から見た世界とは全然違った「視界」です。
また、本書の冒頭で紹介されているマダニは、哺乳類が発する「酪酸の匂い」に反応し、しがみついていた植物から「手を離し」、落ちた動物の「体温に反応」して、口を皮膚に食い込ませる、という動きで、これ以上もこれ以下もない世界で生きているそうで、これがマダニの「環世界」だったりします。
匂いは「酪酸」は「酪酸でない」かのいずれしかないし、動物の体温も「高い」か「低い」かしかなく、我々のような「花の香」とか「氷結」みたいな世界は、彼らにはないんですね。
時間もしかり。
人間は18分の1秒が「一瞬」の定義で、1秒間に18回以上のペースで皮膚を叩くと、ずっと圧迫されている感覚になるそうです。
実験に使われた闘魚(とうぎょ)は30分の1秒、かたつむりは3分の1秒が「一瞬」の定義で、そのためそれぞれ時間の感覚は異なるんだそうです。
我々の時間は、闘魚からみたらスローモーションだし、かたつむりから見たら超ハイスピードなんですね。
こういった「種によって世界が異なる」ということをいろいろな観点で紹介してくれている本です。
この考え方って、実は我々人間の個々にもあてはまりそうです。
「真実とはなにか」という問いかけに対し、物理学者は「客観的に観測される実態」みたいな答え方をするかもしれませんが、結局は「主体的」な視線でものを見ている限り、「そこにあるのは主体的なもののみである」ということも可能かもしれません(^^)
本書の後半で「魔術的環世界」という概念が紹介されていますが、人間の宗教もある意味この概念の一部かもしれないと思いました。しかも人間だけでなく、動物ももっているらしく、宗教は人間の発明ではあるものの、実は生物としての機能の一部だったのかも。。。
「真実ってなんだろう」と考えると、あれこれ考えが彷徨ってなかなか着地点が見つからなくなるかもしれません。
主体的、客観的という難しいことは置いといて、今どきであれば「人は人それぞれ」という多様性を受け入れることと概念は近い気がします。
環世界、生物学の観点でもなかなか興味深いです。
ちなみに今回の課題図書は岩波文庫だったので、岩波100冊プロジェクトの1冊にカウントします(^^)
岩波100冊プロジェクトリスト
1 風姿花伝 青1-1
2 大地(一) 赤320-1
3 大地(二) 赤320-2
4 大地(三) 赤320-3
5 大地(四) 赤320-4
6 方丈記 黄100-1
7 生物から見た世界 青943−1