今回の読書会の課題図書はこちら。
本書は、アフリカのアイドル歌手と結婚した文化人類学者が、その経験を元にフィールドワークを行った西アフリカのギニア、コートジボアールの文化の紹介を軸とした文化人類学の学術書になります。
”学術書”といっても、著者鈴木氏がイントロダクションで「この本はひとつの恋物語であり、ひとつの異文化交流物語である」と語っているように、かたっ苦しいものではなく、我々の目線にたったわかりやすい表現と場面ばかりなので、読みやすい内容です。
ストリートボーイと音楽を研究するために、西アフリカでフィールドワークを始めた鈴木氏は、そこでスターダンサーと出会います。
このダンサーが後に現地で人気アイドル歌手となり、そして著者の妻になるニャマという女性で、しかも「グリオ」でした。
多くのアフリカでは文字文化がなかったため、声と音楽でコミュニケーションをとってきた歴史があり、その伝承者は「グリオ」と呼ばれる特別な存在で、誰でもなれるわけではなく、グリオの家系が代々伝えていくものだそうです。
文字がない分、微妙な音の違いや踊りの表現を理解できる能力にたけており、彼らの生活に深く染み込んだ文化として醸成されています。
妻であるニャマを通じてそういった音と踊りによるコミュニケーション文化を、そして結婚という儀式を通じて民族、家族という文化の違いを研究し、それらを体系的にわかりやすく紹介してくれています。
そして、文化人類学とはどういうものか、その役割や意義についても終盤でまとめてくれており、素人の私でも少し文化人類学に興味をくすぐられる要素もあります。
そもそも文化人類学は、”白人”のヨーロッパ諸国が”未開の地”を征服するに当たり”原住民”を研究することを目的として始まったそうで、著者のいうところの「人類の多様性を理解し、受容していくための学問」という位置づけとのギャップは、かなり苦しい面もあるそうです。
本書の特徴の一つに「注釈の細かさ」があります。
各章の終わりに、文中にふった注釈の番号ごとに補足が記載されているのですが、この”補足”がまた詳しい(^^)
その補足だけでも十分読み応えがあります(笑)
この本を読むと世界各地でおこっている争いが、より悲しく感じられます。
ウクライナやガザ地区がニュースで取り上げられていますが、アフガニスタン、シリアなど中東地域では至る所で紛争は起こっており、舞台となったアフリカにおいてもスーダン、ソマリア、リビア、イエメンなどでも継続しています。
いろいろ批判の多いこの日本ですが、戦後一度も紛争がなく戦争もしなかった(PKO活動において死亡者が出た件はありますが)ことで今の平和があることは、そういった紛争地域を考えると、大きな功績の一つなのではないか、と感じます。
戦後70年で一度も戦争をしなかったのは国連加盟国193カ国の中で、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、スイス、ブータン、 日本の8カ国のみだそうです。
本の内容に戻りますが、著者鈴木氏の視点の幅広さや奥深さ、そしてそれらを伝える表現力は、かの「バッタを倒しに・・・」シリーズの著者前野氏に近いものを感じました(^^)
自分たちが”普通”と思っている文化とは異なる文化が世の中にあり、そちらの視点に立つと我々は”普通ではない”文化を持っているわけで、ひどく言えば彼らからすると”未開人”なのかもしれません(^^)
余談ですが、「バッタを倒しに・・・」の著者前野氏は婚活がうまくいかずに未だに独身のフィールドワーカーですが、こちらのフィールドワーカー鈴木氏は見事に成婚という対象的な構図も、私にはちょっとしたスパイスでした(^^)
個人的にはとても楽しい一冊でした。