今回の読書会の課題図書はこちら。
著者の彬子女王殿下は、その名の通り現役皇室の方です。
昭和天皇の弟は3人いるのですが、その末弟が三笠宮崇仁(たかひと)親王。
その息子が憲仁(のりひと)親王殿下。上皇様の従兄弟にあたり、”ひげの殿下”として親しまれていました。
本書の著者彬子女王殿下はその”ひげの殿下”の長女でいらっしゃいます。
そんな皇室の人がオックスフォード大学に留学したときの生活の様子を綴ったエッセイが本書です。
皇室にかかるすべての費用は税金でまかなわれています。
したがって留学の費用も税金が投入されていることになります。
彬子女王殿下は最終的には博士号を取得されますが、それにいたるまでの活動を国民に報告するという意味合いもある、と文中でおっしゃっていました。
元々は月刊誌「Voice」(PHP研究所)2012年4月号〜2014年5月号に連載された「オックスフォード留学記ー中世の街に学んで」に加筆を得て再編集し、2015年1月に単行本として刊行されています。
それが2023年にX(旧Twitter)でバズったことをきっかけに文庫本で復刻した、とあとがきにかかれていました。
留学時のできごとを25個の短編エッセイにして、それぞれ四字熟語をタイトルにふっています。
辛かったことよりも楽しかったことを中心に展開され(著者があとがきで「自然と”楽しかったこと”が中心になってしまった」とふれています)、イギリス生活を知らない者にとっては、イギリス、オックスフォード大学での生活を垣間見ることを普通に楽しめます。
この本の持ち味はやはり、”皇室の人”の視線であることではないか、と思います。
皇室の人は基本国内でも海外でも、どこにいくにでも”護衛”がついています。
その存在そのものが外交的な価値を有していることから、それを悪用しようとする人・組織から守ることが国益を損ねることを防ぐからです。
ところが、”留学”となると留学先に護衛をつけることは、費用面、護衛の人の生活などを鑑みると現実的ではないこと、また留学先のイギリスでは皇室継承権の序列が低いと皇室の人でも護衛がつかないこと、から彬子女王殿下クラスの場合は護衛がつかないんだそうです。
彬子女王殿下からすれば、”超”非日常の日々だったわけで、生まれて初めての体験という興奮、喜び、戸惑い、といった感情がいきいきとつづられています。
”一般人”である我々からすれば、”当たり前”的に感じることも、彬子女王殿下にすれば、驚きだったり、喜びだったりするわけです。
それがなんとも微笑ましく、読んでいるといつの間にか、彬子女王殿下の応援団の一人になっています。
東日本大震災をはじめとした自然災害による被災、コロナパンデミックによる活動自粛といった経験をすると、水を飲む、とか、お風呂に入る、とか、新鮮な食品を食べる、とか、人と会う、といったそれまで”当たり前”だったことができなくなり、その”当たり前だった”活動にありがたみを感じた人は少なくないと思います。
しかし、それも喉元すぎればなんとやらで、いつの間にかその感動を忘れてしまいます。”非日常”から”日常”になったとたんに、ありがたみを感じなくなってしまうところが人にはあるように思えます。
彬子女王殿下は5年という長い期間留学されていましたが、護衛のない自由な時間は帰国とともに失われることを知ってか知らずか、感情の上下はあったにせよ、その時間をとてもありがたく感じていたのではないか、という印象を持ちました。
先日天皇陛下、皇后陛下がそろってイギリスを訪問されたとき、天皇陛下が「オックスフォード留学時代はかけがえのない時間だった」という内容のことをおっしゃっていらっしゃいました。
将来の天皇が約束されている人には”自由”はほぼないに等しいことでしょう。
人生でたった一度きりの”自由”な時間だったんでしょうね。
私は32歳で初めて海外に行って半年ほど生活し、その後42歳で再び海外に赴任し2年ほど生活を送る経験をさせてもらいました。
日本とは全然違う環境、ルール、気候で生活をしたことは、良しにつけ悪しにつけ知見を広げてくれたと感じています。
あまり「もし過去に戻れるならなにをしたい?」ということは考えないたちですが、学生時代の留学、は数少ない「過去に戻れたらやりたい」と思えることかもしれません(^^)