今回の課題図書はこちら。
読書会で吉村昭(以降敬称は略して記載させていただきます)の作品は、高熱隧道以来2回目かな。
なかなか生々しい描写で迫力があったのですが、実際にあった黒部ダムの工事の模様がベースになっていて、小説でありながらかなり史実に近い内容でした。
吉村昭は、取材と調査を重ねて実際にあったできごとを題材にする作品が多いのが特徴です。
本作品は、小説ではなく、吉村昭自身の体験や作品つくりの気構えなどをつづったエッセイ集という異色の作品です。
わずか文庫本で313ページの中に58のエッセイが収録されています。数ページに渡るものもあれば、わずか1,2ページという作品もあります。
昭和3年生まれなので、視点や感覚が昭和らしさが垣間見られるのですが、私はこのエッセイを通じて吉村昭という作家に興味をもちました。
恥ずかしながらこれほど著名な作家にもかかわらず、肝心な作品はほとんど読んだことがありません^^;;
しかもどうも、高校の先輩だったらしいこともこの本を読んで知りました。
あ〜、なんたる無知ぶり・・・
そんなプチ自己嫌悪はとりあえず脇においといて、どこに興味をもったのか、というと、作品のベースとなる史実を徹底的に取材していたこと。
その取材は資料をあたっていくこともあれば、現地で関係者に直接話しを聞くこともあったそうで、できるだけ”一次資料”に近づこうとする意気込みを感じます。
そして取材旅行先では、ほぼ必ず飲んでいるご様子(^^)
しかもある程度長く滞在するところでは、小さなお店をなじみ客になるくらいリピート利用していたところなど、スタンスが近いなぁと感じます。
そんな吉村昭という人物に多少なりとも関心を持てたのが、この本を読んだ収穫だったかもしれません。
もう少し作品に触れたいと思って、先日まず1冊作品を購入してみました。
ドキュメンタリー系といえば、10年ちょっと前に、一時期”企業小説”なる分野を好きで読んでいました。江上剛、高杉良あたりの作品です。
ビジネスを舞台にした実際の出来事をベースに小説にした作品です。
江上、高杉はビジネス界を舞台にしていた一方、吉村の作品は、先程触れた「黒部ダムの工事」を舞台とした「高熱隧道」を始め、菊池寛賞を受賞した「戦艦武蔵」、江戸時代の学者前野良沢を扱った「冬の鷹」、四度の脱獄を刊行した昭和の脱獄王「白鳥由栄」を扱った「破獄」、他にもシーボルトや大黒屋光太夫なども扱っていて、江戸時代から現代に至るまで、歴史的には扱っている時代の幅が広いですね。
本書でも触れられていますが、吉村昭は子どものときに結核にかかり、死を覚悟するくらいだったそうです。
その時にうけた手術が、本人の言うところの”奇跡的”な効果があって、79歳まで活躍されました。
最後は、”東京都三鷹市の自宅で療養中に、看病していた長女に「死ぬよ」と告げ、みずから点滴の管を抜き、次いで首の静脈に埋め込まれたカテーテルポートも引き抜き、数時間後”に亡くなったそうです。(””内はWikipediaから抜粋)
膵臓がんで全摘したあととのことで、同じ症状の父をみていたこともあり、今の感覚なら自殺ととらえられるかもしれませんが、なにかわからないでもない感覚があります。
”引き際”とでもいうのでしょうか。
人それぞれの感じ方があるかと思いますが、吉村昭という人物を感じるという意味では、本書はなかなかいい本じゃないかなぁ、というのが私の感想です(^^)
荒川区に吉村昭記念文学館があるようなので、今度ふらっといってみよう。
都電のトラムにも乗れるし(^^)