今回読んだ本はこちら。吉村昭作品で、明治時代初期、日本に来日したニコライ皇太子(後の皇帝)が滋賀県大津で警備員に切りつけられた事件を取り上げた小説です。
本作品は大きく3つの場面に分けられると思います。
1 ニコライ皇太子の来日と日本での歓待
2 ニコライ皇太子襲撃事件と日露間の外交駆け引き
3 犯人・津田三蔵の処分と法治国家としての日本の対応
最初の「ニコライ皇太子の来日と日本での歓待」の部分は、あまり変化がなく、なんとなくダラッとした感があって、正直このまま展開が続くと辛いなぁ、という印象(^^)
それでも「丁寧な史実の調査に基づく」という吉村昭作品の特徴は随所に見られており、本小説の流れに大きな影響はないだろう、みたいなところでも細かい描写がみられるので、リアル感をたっぷり感じられます。
ニコライ皇太子は世界一周旅行の途中に立ち寄ることになり、まだ軍事的にも弱い立場にあった日本は国賓として迎えることになりました。
そして皇太子の意向もあって、長崎から鹿児島、神戸、京都などを訪れて明治天皇のいる東京に向かうという日程が組まれていました。
最初の「1 ニコライ皇太子の来日と日本での歓待」は、京都をすぎて事件のあった大津に到着するまでの場面となります。
そして事件が発生し、場面が「2 ニコライ皇太子襲撃事件と日露間の外交駆け引き」に変わります。
皇太子襲撃という未曾有の事件に、明治天皇以下日本政府はパニックです。
幸い怪我は重傷ではあるもののそれほど深刻ではなかったことから、日本政府は東京までの外遊を継続してもらうとしますが、ロシア側は「こんな危険なところにいられるか!」とすごい剣幕。
ただ被害者本人である皇太子は東京に行きたい、と切望します。
このあたりの駆け引きは、「1 ニコライ皇太子の来日と日本での歓待」場面の展開とは全く異なり、とても緊迫感が伝わってきます。
結局皇太子は帰国することになりますが、本はまだ3分の1ほどページが残っています。
すると場面は時間が遡られ、犯人津田三蔵が捕まった場面に戻ります。
今度は津田を軸に場面が展開していきます。
それは津田の処分の仕方が最大の問題となったからです。
ロシア側は暗に死刑を求めていることを匂わしますが、当時の日本の法律では死刑にする明確な規定がありませんでした。
ロシアの怒りを買って戦争になることを恐れる政府官僚はこぞって「天皇、皇后、皇太子を襲ったものは死刑にできる」という百十六条の適用を迫りますが、裁判官は「それは”日本の”皇族に適用するものであり、法律は曲げることはできない」と反発。
日本政府と司法との駆け引きが「3 犯人・津田三蔵の処分と法治国家としての日本の対応」の場面となります。
『ニコライ遭難』は、単なる歴史小説ではなく、国際関係や法のあり方について深く考えさせられる作品という印象です。
吉村昭の特徴である、簡潔でありながら緻密な描写により、事件の背景や当時の社会情勢がリアルに伝わってきますね。
本作品は、主人公のような特定の人物を前面に出すのではなく、政府高官、ロシア側の対応、津田三蔵の心理など、多角的な視点から物語が進んでいるのも特徴の一つかもしれません。
歴史に詳しくない方でも、事件の流れを追ううちに自然と当時の日本の立場や国際社会の動向を感じられる仕上がりと思います。
外交問題や法の運用といったテーマが現代にも通じる部分が多く、読み終えた後には「もしこの事件が現代で起こったら?」と考えさせらました。
