今回の課題図書はこちら。
鳥に言葉が存在することを証明し、動物言語学を生み出した鈴木さんの著作です。
実は、鈴木さんが鳥に言葉があることを見つけた、という話はテレビで紹介された時に視聴していて、ざっくりと内容は知っていました。
本書でその時の内容をより具体的に知ることとなりました。
生物学者の鋭い観察力と、探究心、そして学説としてまとめあげるための地道な活動を続けられる忍耐力がよく伝わってきます。
読書会で本書を選書した主宰が「バッタみたいだよ」と言っていたのがよくわかります。
「バッタ」とはこのブログでも紹介した「バッタを倒しにアフリカへ」「バッタを倒すぜアフリカで」という前野ウルド浩太郎氏の著作のことです。
お二方とも、さきほど言及した観察力、探究心、忍耐力がずば抜けているだけでなく、文章の書き方というか、語り調がどこかコミカルで、独特のオタクっぽい世界を「当たり前」のようにニコニコしながら、こちらの戸惑いをもろともせずにグイグイと自分の世界に引き込んでいく書きっぷりが、とても似ていると感じました。
題材にしたのは、シジュウカラを始めとしたカラ類と呼ばれる鳥。
シジュウカラがどうも単語を操っているらしい。
しかもその単語を組み合わせて文章にしているらしい。
さらにそれはシジュウカラ同士だけでなく、ヤマガラやゴジュウカラといった他のカラ類にも伝わるし彼らの発する言葉もわかるという、トリリンガル的な能力をもっているらしい。
こういった驚きの能力を、地道なデータ集めを通じて学説としてまとめ上げた著者。
月並みですが、すごい、の一言です。
本書でも触れていましたが、「言葉を扱うことができるのは人間特有で、それ故に人間は他の生き物と違って高等である」という風潮に、大きなボディーブローを食らわせたような快感があります(笑)
自分以外に何かしらの意思または情報を伝達する行為をする生き物って他にもありますよね。
くじらは独特の「歌」と呼ばれる鳴き声で仲間に何かを伝えているようで、その解明ができるかもしれない、という論文が発表されていました。
(クジラの「会話」解読に光、「音声のイロハ」を発見か - 日本経済新聞)
シャチやイルカは狩りをする時にコミュニケーションを交わしているようです。
像も人間には聞こえない周波数帯(低周波らしい)を使って仲間に情報を伝えていることが知られています。
(参考文献:入江尚子,大脇雅直,財満健史,長谷川壽一:アジアゾウの低周波コミュニケーション,日本音響学会講演論文集 (2009.3))
植物でさえ情報伝達をしていることが明らかになっています。
人間以外の生き物の中に、言葉の存在やコミュニケーションをしていることはわかっても、その「言葉」そのものを体系立てて照明したのは、この鈴木さんが世界で初めてでしょう。
どういうアプローチをしたら、人間以外の生き物の「言語」にたどり着けるかという、研究としてはとってもすごい(と私は思う)ことを、この本ではやさしく紹介してくれています。
もちろんシジュウカラでできた実験を、ザトウクジラにそのまま応用できるわけではないですが、どんな生き物でも音を組み合わせて文にしているかも、という仮説をたてて研究をすることはとても意義がありそうです。
いずれは、そういう研究成果とAIが合体して、地球上の生き物と会話できることができるかもしれません(^^)
でもね、人間ってとってもずるがしこい生き物だから、そんな技術ができたら、また調子に乗って他の生き物に対してマウントしてきそうな気がするなぁ。
むしろ、ほんの一部だけにとどまってくれたほうが自然界としては嬉しいんじゃないだろうか。
