今回の読書会の課題図書はこちら。
著者の鈴木宜弘氏は東京大学大学院農学生命科学研究科の教授で、農業の環境について警鐘を鳴らしている人です。
地球温暖化の影響で農作物の収穫に影響がでることは想像できますが、飢餓の危機を招くのはそれだけではありません。
ウクライナ戦争で小麦の流通に大きな影響がでたことを記憶に新しいところです。
そう、「物流」が止まることで自給率の低い国には食料が入ってこなくなるのです。
本書の「まえがき」の冒頭にこんな記述があります。
「国際物流停止による世界の餓死者が日本に集中する」という衝撃的な研究成果を朝日新聞が報じた。米国ラトガース大学の研究者らが、局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は2,700万人だが、「核の冬」による食料生産の現象と物流停止による2年後の餓死者は、(中略)世界全体で2.55億人の餓死者のうち、約3割の7,200万人が日本の餓死者と推定した。
(以上本書「まえがき」より抜粋引用)
なかなか衝撃的です。
ここで大事なのは「自給率」の概念。
”生産”を自国内でできれば”自給”と考えがちですが、本書では”生産”だけでなく”種”や”肥料”、”飼料”といった生産に必要なものも含めています。
”種”がなければ生産はできませんし、”肥料”がなければ育てることができません。
本書によると、野菜の”国内生産”の占める割合は80%を占めるのですが、その種は90%が輸入に頼っているそうです。
ほぼ国内生産と言われている卵も、国内生産率は97%くらいあるそうですが、その卵を生むにわとりのひなはほぼ100%、飼料のとうもろこしもほぼ100%輸入だそうです。
ウクライナ戦争の影響は小麦の物流にとどまらない、と本書は指摘します。
ウクライナ北東部にハルキウにある「シードバンク」がロシア軍の攻撃によって損害を受けた可能性があるらしいです。
シードバンクとは植物などの趣旨の遺伝情報を保存する施設で、ウクライナのシードバンクは世界最大級で16万種以上もの種を保存していたそうです。
日本の野菜は大きさなどをそろえるため、一代限りの品種「F1」を栽培しています。一代限りですから、毎年種を購入する必要があるのです。
肥料については材料となる尿素は97%、カリウムは100%輸入に頼っているそうです。
一方輸入品に対する警告もあります。
アメリカからの輸入豚肉にはラクトパミン、アメリカ、オーストラリアからの輸入牛肉にはエストロゲン(女性ホルモンの一種)が成長促進のために投与されているものが多いらしく、それらは輸出元の国内では規制はあれど日本への輸出には規制が実質ないに等しい状態のため、成長促進剤を投与された肉が日本への輸出に回されている、と著者はいいます。
著者は長年、このラクトパミンなどの成長促進剤に対する規制をうったえてきています。
このように業界をしらない私のような者にとっては、いろいろと教えてもらえる内容が多いのですが、一方「こうすべきだ」という著者の主張部分については、若干違和感を感じるところはあります。
この道の専門家でもあるので、食の自給率改善が何よりも優先されるべきで、防衛費にお金をかける余裕があるなら、こちらに金を回せ、的な論調が目立つからです。
また財務省と経産省は「食を軽視している」と決めつけているなど、一事が万事的な論調がところどころで目につくんですね。
先日ここで紹介したマクロ経済の状況や、アメリカ国内の状況などの一端をのぞいただけですが、いろいろな要素が複雑に絡み合った国際情勢において、食料問題は「こうすればいい」という簡単な話ではないと感じます。
他の産業や政治的な要素もあって、国際交渉は様々な取引材料を扱う微妙なバランス(そのバランスをトランプが壊そうとしていますが^^;;)を扱える感覚が必要と思います。
(私には到底無理(笑))
その昔江戸時代は鎖国していたこともあって、ほとんど自給できる生活でした。
またごみとなりそうなものも徹底的に再利用していたこともあって、「ゴミ箱」という概念でさえもなかった、とききます。
それが明治の時代になって海外からの輸入が始まると多くの製品が輸入にとってかわられてしまいました。
当時の明治政府は小村寿太郎が改正するまで、関税自主権を持てなかったので国内産業を関税で保護することもできませんでした。
ただ、問題は輸入品にまけたということは、価格&品質という総合力で国内産は負けてしまった、ということです。
安くていいものがあれば、人々はそちらになびきます。
今の時代なら経済感覚が多くの人についてきましたからなおさらです。
この人の”自然な”流れをうまく”御する”手段の一つが、同じ”人”が作るルール。
関税もそう、補助金もそう、法律もそう。
どういい塩梅で作って環境の変化に合わせていくか・・・あ〜〜なんて難しいんだ。

