今回の読書会の課題図書はこちら。
社会をつくる生物として知られているアリ。
そんなアリが一人ぼっちになったらどうなるんだろう。そしてどうしてなんだろう。
そんなテーマを研究している著者が10年かけて研究してきた内容を、わかりやすくまとめてくれた本です。
前回の課題図書が「内務省」というなかなか重たい内容だったこともあり、今回の選書はちょっとホッとするテーマでした^^;;
本書は
第1章:「なぜアリを研究するのか?」に答えよう
第2章:アリの生活史を紹介しよう
第3章:本題の「ぼっちアリはなんで死んでしまうのか」というテーマに対する研究活動を紹介しよう
第4章:最新の解析、研究技術について紹介しよう
第5章:アリの研究ってヒト社会が直面する社会的課題に役に立つことがあるのか考えてみよう
という構成で成り立っています。
生物学の研究において、「観察力」はとても大事な要素。
私のようなぼけ〜っとした人間にはとても真似できないずば抜けた観察力と卓越した想像力をいかんなく発揮して、新しい世界を我々に見せてくれます。
この読書会でもそんな本がいくつか選書されてきました(^^)
今回のこの本も、また新しい世界を見せてくれました。
まず「モデル生物」という概念。
よく薬の研究などでマウスが実験で使われるのは見聞きします。
ヒトの遺伝子の99%がマウスにも保存されていることがわかっていて、マウスでの実験結果がヒトへの研究の足がかりになるからなんですね。
哺乳類ならこのマウス、魚類ならゼブラフィッシュやメダカ、昆虫ではショウジョウバエ、単細胞なら大腸菌や酵母といった生物が、古くから「モデル生物」として研究がされていたんだそうです。
モデル生物には遺伝子の機能などを自由に操作する手法が開発されているので、条件を絞って実験をしやすいんだとか。
そして、遺伝子操作による研究がかなり進んでいる、ということ。
遺伝子操作って、健康や倫理面でいろいろ賑わせていますが、研究の手段としてはかなりすぐれた手法のようですね。
研究成果としては、ぼっちアリが死んでしまう原因として、酸化という現象が関係していることがとても興味深いですね。
ヒトも体内の酸化によって老化が進んだり、ダメージを受けることがあって、ポリフェノールのような「抗酸化物質」を取り込むことが健康活動の一つと言われています。
もしかしてこのアリの研究って、かなりヒトの世界に応用できそう?と期待もちそうになるのですが、そうは問屋がおろさない(笑)
そして著者自身も「ヒトの孤立」と「アリの孤立」は性格が違う、という見解を持っています。
では、なぜ「アリの研究を」?
直接「ヒト」と結びつけようとするとなかなか簡単ではないところ、「アリの研究の意義」について著者は問いかけます。
それが第5章にかかれているので、この本を手に取られる方は第5章で著者といっしょに考えてみてください(^^)
明確な目標があってその目標を達成したときの成果もまた明確であれば、とてもわかりやすいですが、世の中そういうケースはむしろ少ないくらいではないでしょうか。
「なんのためにこれをやっているんだろう」とか「これって意味あるのかな」なんて自問することはよくあるかと思います。
その時には見えない、わからない、けどさらに深堀りしていったり、新しい情報を得たとき、「あれ?」と別の道が見えてくることがあるかもしれません。(本書の著者もそのようなことに触れていると思います)
答えが見えない、わからないでも、あきらめなければ一歩先が見えてくるかもしれない、という、なんとなく生き方の一つを見せてくれているように感じます。

