今回読んだ本はこちら。
古代史を舞台とした小説です。
先日まとめ買いした中の2冊になります。
奈良時代、孝謙天皇が淳仁天皇(大炊王)に譲位し上皇(阿部上皇)になったあと、藤原仲麻呂の乱を経て称徳天皇として重祚(ちょうそ)したあたりが舞台となります。
阿部上皇は仏教に心酔。
一方孝謙天皇時代に天皇を支えていた藤原仲麻呂は儒教を全面に出し淳仁天皇を支え、官僚を育成するための大学寮を創設します。
上皇が道鏡という僧侶にうつつを抜かし、それを憂いながら世直しを図ろうと大学寮では将来の官僚が勉学に励みます。
小説の前半では、キーとなる登場人物を紹介するようにいろいろな場面で登場させ、おだやかな雰囲気を醸し出します。
皇族、貴族、平民、そして奴隷と当時の日本にはカースト制度顔負けの身分制度があったことがこの小説を通して知ることとなります。
皇族、貴族、平民はともかく、奴隷がいたことは知りませんでした。
皇族、貴族、平民らは「良戸」と呼ばれ、奴隷は「別の生き物」とされていたようです。今のペットよりも扱いは低い気がします。
しかし穏やかな雰囲気だけでは小説になりません(^^)
政権の主導権を握ろうと権力欲を表に出し始めた藤原仲麻呂と蜜月だったはずの阿部上皇との関係が嫌悪化し、ついに仲麻呂が蜂起し戦争が勃発。これが藤原仲麻呂の乱です。
これで阿部上皇派と大炊帝(淳仁天皇)派との対立が確定的になり、藤原仲麻呂が設立した大学寮は、仲麻呂が支持していた大炊帝派とされ、上皇派から執拗に弾圧されるようになります。
国を思う気持ち、大学寮の仲間を思う気持ち、それらの気持ちの芯にあるのが”義”という概念。
小説の中盤からは、彼らの”義”がどこに向かっていくのかを描いています。
時代が奈良時代とかなり古い時代にも関わらず、現代的な感覚というか感性を感じるためか、とても読みやすく一気に読んでしまいました。
私の少ない読書経験からすると、和田竜氏の「海賊の娘」や「のぼうの城」を読んだときの後味と同じようなものを感じます。
仲間がいて、戦争があって、いろいろなものが壊れていく中で、なにか大切なものでつながり続けている、そんな展開だからでしょうか。
小説としてとても楽しめるので、澤田瞳子氏の小説、もう少し読んでみようと思いました。

時代小説はフィクションではありますが、当時の時代背景の上にあるので、ある程度の史実を学習することもできます(^^)
孝謙天皇(称徳天皇)は奈良の大仏様で有名な聖武天皇の娘で、称徳天皇として重祚した後江戸時代初期の明正天皇にいたるまで女性天皇は850年登場しません。
第46代天皇が孝謙天皇で、第47代淳仁天皇をはさんで、第48代称徳天皇として重祚。
称徳天皇が崩御したあとは、荒れた政治の中でじっとおとなしくしていた白壁王が光仁天皇として就位します。
この小説でも白壁王は政争に巻き込まれないように当時の権力の傘に隠れるようにじっとしています。
そしてこの時点で、第42代から続いていた天武天皇系統が途絶え、天皇の系統は天智天皇系に戻ることになります。
(第43代元明天皇は天智天皇の娘だが、天武天皇の息子である草壁皇子の妃で、第42代文武天皇、第44代元正天皇の母です)
そして光仁天皇の跡をついだのが、その息子の山部王、すなわち第50代天皇の桓武天皇です。

