今回読んだのはドストエフスキーの代表作「罪と罰」。
本当は上巻、中巻、下巻と3部作なのですが、中巻を持ち合わせておらず(笑)上巻と下巻を読みました。
私が持っているのは岩波文庫版で、江川卓氏の翻訳です。(もちろん、あの元プロ野球選手ではありません(笑))
岩波文庫版は絶版となった中村白葉訳の第1巻〜第3巻があったようですが、現在新品で購入できるのは、江川氏翻訳バージョンです。
また古典をわかりやすい現代語で記述してくれることで評判の高い光文社古典新訳文庫版は、亀山郁夫氏による翻訳です。
今回、上巻と下巻しか読んでいませんが、NHKオンデマンドの「100分de名著」も参考にしてまとめたいと思います。
「罪と罰」は1866年、雑誌「ロシア報知」にて連載された、ドストエフスキー45歳の時の作品です。
「100分de名著」で知ったのですが、物語は7月7日から7月20日までのたった2週間のできごとなんですね。
当時のロシアは、1861年にロシア皇帝アレクサンドル2世が「農奴解放令」を発布した直後で、土地に縛られていた農民たちに人格的自由と市民権を与え、資本主義にむかったところですが、多くの農民が都市に流れてきたものの経済的に困窮していたようです。
ロシアはロシア正教を信仰していましたが、経済的に困窮した多くの農民たちにとっては「金」が新たな信仰対象となる傾向がでてきた、そんな時代背景です。
主人公は法律を学ぶ有能な大学生ラスコーリニコフ。
雑誌の論文を掲載するくらい有能ではあったのですが、その論文というのが「社会には革命をもたらす天才と邪魔する凡人がいる。天才の偉業の前には、凡人の生命を奪っても構わない」という思想を展開した”犯罪論”というものでした。
その考えのもと、「高利貸しで庶民をいたぶっているしらみのような人物は抹殺されてよい」と、高利貸しの老婆アリョーナ・イワーノヴァを殺害することにしました。
しかし、殺害を実行するまで、そして殺害を実行したあと、ラスコーリニコフの心は大いに揺れます。
自分の取った行動と、それを現実に受け止められない精神状態との間に苦しむのですが、自分を待ち構えている「罰」には恐れをいだきながらも「罪」の意識はどうも希薄のよう。
それが、酒場で知り合った男の娘ソーニャと出会ったことで、心のゆらぎが少しずつ収束する方向に向かっていきます。
この小説は、子供の頃に抱えていた農民たちに父を殺され、その後の左派の政治活動に近づき逮捕され、一旦死刑判決をうけつつも恩赦によって生命がつながったという、壮絶な経験をしてきたドストエフスキー本人の体験が大きく影響しているもよう。
このあたりは下巻の巻末にある訳者江川氏による解説で、わかりやすく説明されています。
主人公のラスコーリニコフによる犯罪論、これって戦争を肯定する考え方にも通ずるところがあります。
チャップリンの映画「独裁者」にあった、「1人を殺せば犯罪人だが、100万人殺せば英雄だ」と同じ。
だから「罪」の意識が薄い。
信仰がそんな人たちを救ってくれるはず、とドストエフスキーは思っていたのでしょうか。
哲学的であり、心理描写がリアルだし、そして宗教観ということも考えさせられる奥深い小説と感じます。
私が小説の流れとは別に受けた印象が2つ。
1つは「セリフが長い」(笑)
1人が話すセリフが何ページも渡ることがかなり多い。
ロシア人ってこんなおしゃべりなの?と思わされます。
しかも話が行ったり来たり、どうでもいいことも挟んできたり、注釈入れたり(笑)
上巻でラスコーリニコフの母が手紙をラスコーリニコフによこし、最後に「便箋2枚ほどのこの手紙」みたいなことがかかれていたのですが、どう考えても原稿用紙十数枚に匹敵する量、という内容でした(笑)
この長いセリフは本書を読むに当たってなかなかの強敵です^^;;
もう1つは、「貧しい」。
主人公のラスコーリニコフもそうですが、登場してくる人物が一部を除いて、明日の食事にも困るだろうというくらい貧しい。
「多くの犯罪は貧困から生まれる」と思っている私にとっては、強盗、殺人などの犯罪が頻発してもおかしくないような環境という印象です。
100分de名著で紹介された、主人公ラスコーリニコフの7月7日から20日までの流れをこちらでも紹介しておきます。
7月7日 殺人の下見に老女のところに行ったが、そこで迷う
7月8日 母からの手紙が届く「妹が生活を支えるために成金と結婚しようとしている」
そして老女の妹が不在となる時間を知ってしまう
7月9日 使おうと思っていた斧が下宿からなくなっていたが、別に偶然斧を見つけ、老婆のところへいき、殺害。
7月10日 警察に出頭するが卒倒する。奪った金品を隠す
7月11日〜13日 意識不明で眠り続ける
7月14日 意識回復。娼婦ソーニャと出会う。母と妹ドゥーニャが上京し再会する
7月15日 予審判事(ポルフィーリー)と「犯罪論」について話し対決する
妹に言い寄る男スヴィドリガイロフが訪ねてくる。
ソーニャに聖書の一節を読んでもらう
7月16日 再び予審判事(ポルフィーリー)と対決。
ソーニャに秘密を告白
7月17日〜18日 記憶が混濁する
7月19日 予審判事(ポルフィーリー)から自首を勧められる
スヴィドリガイロフが妹にある秘密を暴露
7月20日 スヴィドリガイロフ自殺
警察署へ自首
おそらく本書は読めば読むほど新しい発見があるかもしれません。
それくらい読み応えのある小説だと思います。



