久しぶりに澤田瞳子作品を読みました。3ヶ月ぶり、かな。。。
江戸時代に活躍した画家伊藤若冲の人生に様々な人たちの人生がいろいろな形で絡んでいく様を、8つの短編小説で表現した作品です。
伊藤若冲は青物問屋「桝屋」の長男として生まれ、父源左衛門が亡くなった後に跡を継いで桝屋源左衛門を襲名します。
しかし、商売に全く興味がなく40歳で弟に家督を譲って隠居し、そこから多くの作品を世に出していくことになります。
なかでも強い存在感を放つのが、市川君圭という贋作師です。
伊藤若冲だけでなく、与謝蕪村などの作品の贋作を作っていたことで知られています。
史実では若冲と血縁関係はあることは確認されてませんが、本作では若冲の妻・お三輪の弟、すなわち義弟という設定が与えられています。
若冲に詳しい人は「あれ?」と気づかれたかもしれません(^^)
そう、若冲は生涯嫁を取らなかった、というのが現時点での通説です。
澤田瞳子氏は、ここをあえて「若冲には嫁がいた」という設定にして、よりによって贋作者市川君圭を”義弟”とし、若冲の人生に大きく影響を与えた人物として描いたのです。
若冲に嫁がいた事実は確認できていないが、嫁がいなかったという事実も確認できていない(^^)
市川君圭には姉がいなかった、という”事実”も確認されていない(と思われます)。
歴史小説は事実と明らかに異なることは書けないが、不明の領域については創作を入れる余地がある、と巻末に掲載された解説をみて、「なるほど」と思いました。
そういう設定にすることで、なぜ市川君圭が贋作に手を染めたのかが不思議と自然に感じ(きっと創作だとは思うのですが)、それが若冲の画そのものになくてはならない存在となっていく。
この市川君圭の存在が、この小説を実に面白い作品にしてくれています。
池大雅、与謝蕪村、円山応挙、谷文晁といった実在した当時の画家の大家との交流、青物問屋「桝屋」から隠居した後の画家としての活動、といった”史実”と言われている若冲像を軸にしつつ、余白にいろいろな人物やできごとを織り込むことによって、さも、若冲の伝記のようにしあげてしまう、この見事さに感服です。
8つの短編で構成されていると述べましたが、最後の短編は、実は若冲が死んだ後の話なんです。
主人公が死んでしまい、若冲の周りにいた人たちのその後を描くことで、若冲の人生そのものにまたスポットをあてるという、なかなか心憎い演出です。
ノンフィクションとフィクションを実にきれいに融合させ、それでいて丁寧な描写によって当時の人々の暮らしぶりがあざやかにイメージできる、歴史学者ならではの表現に、ついつい引き込まれてしまいます。
私が見たことも会ったこともない若冲や他の登場人物の姿や舞台が、澤田氏の描写によって私でも頭の中で画となって浮かんでくるようです。

