久しぶりに澤田瞳子氏の作品を楽しみました(^^)
今回の舞台は、奈良の大仏「東大寺盧舎那仏像(とうだいじるしゃなぶつぞう)」造営事業の工事現場です。
奈良時代は澤田瞳子氏の専門性がいかんなく発揮される時代です。
故郷から造仏所に徴発された真盾(またて)は、信仰心もなければ、三年も従事しなければならないという仕組みや現場の複雑な人間関係にうんざり。
そんな苦痛しかない現場において、やたらとうまい飯を食わせる炊屋(かしきや)の宮麻呂がつくる旨い料理を食べる食事の時間が唯一の楽しみ。
ところがこの宮麻呂、ただの炊屋の主人ではなさそうだ(^^)
その炊屋を舞台とした物語集が本作品です。
本書の解説がまたいい
「この作品は大仏造立を主題においた、肩が凝るほど早大な歴史小説ーでは、まったくない。ホームズとワトソンめいた二人が登場する推理小説であり、さらに読者には二度美味しい、お食事ミステリーとなっている」
さすが作家。実に上手に本書の特徴を言語化してくれています。
”食x謎解きx歴史”小説、といったところでしょうか。
そうなんです、まさに推理小説っぽいんですよね。
宮麻呂がホームズで、真盾がワトソン、という感じだろうか。
最初は炊屋の主人と役夫(仕丁という)という間にすぎなかった宮麻呂と真盾ですが、回を追うごとにその関係は距離を縮めていくことになり、本作品の柱である、宮麻呂とはどういう人物なのか、というベールが少しずつ外されていくのが面白い。
物語の展開が楽しいのは言うまでもないのですが、相変わらず描写が丁寧である。
大仏を作るための型の作り方、銅の溶かし方、足場の作り方など、工事現場の棟梁のように実に具体的に描写されています。
それに宮麻呂の作っていた料理。
一汁一菜ではありますが、たくさんメニューがあって当時の食事事情って意外と悪くないんだな、という印象さえもちます。
そしてちゃんと歴史的な背景があり、それがこの物語がただの謎解きではない面白さを生み出しているように思えます。
奈良時代といえば、朝廷の勢力は東はせいぜい関東までで、仙台の近くに多賀城を作り、そこから北東北で勢力を誇っていた蝦夷(えみし)を牽制していたし、九州南部は隼人(はやと)と呼ばれる勢力が強かった、と言われています。
また東大寺盧舎那仏像の造立を命じた聖武天皇は仏教に入れ込んだ天皇として知られています。
そして孤鷹の天でも登場していましたが、この時代は奴婢、すなわち奴隷制度がありました。
したがって位の違い、出身地の違い、奴婢との違いなどによる人種差別的な視点は当たり前のようにあった時代でもあります。
そんな現代と全く違い、見たこともない世界なのに、なぜか情景が目に浮かんでくるような気がするのは、澤田瞳子氏のうまさなのだろう。
なお、タイトルとなった「与楽」とは、仏教用語で「人々に楽しみや幸せを与えること」を意味するそうです。
奈良時代を舞台ににした作品をおさらいしてみました。
本作品の舞台である聖武天皇時代はもう一つ、澤田瞳子氏による「夢も定かに」があります。
本作品が造仏所の現場に対し、「夢も定かに」は宮中のお話。
聖武天皇の娘の阿部(孝謙天皇で後に重祚して称徳天皇)の時代は、澤田瞳子氏のデビュー作である「孤鷹の天」。
聖武天皇の叔母である元正天皇が主人公の小説は永井路子の「美貌の女帝」。
その元正天皇の叔母である持統天皇の時代は澤田瞳子氏の「日輪の賦」。
また持統天皇の甥で称徳天皇の後に天皇となった光仁天皇とその息子桓武天皇、そして平城天皇、嵯峨天皇と続く平安初期の時代は「王朝序曲」。
次に予定している作品も奈良時代です(^^)

