今回の読書会の課題図書は野口悠紀雄氏著作の「戦後経済史」でした。
著者の野口悠紀雄氏といえば、「超整理法」を始めたとした「超」〜シリーズを始め多くの経済書を出版され、最近ではブロックチェーンの可能性についても言及されるなど、精力的に活動されている経済学者のお一人です。
歴史の教科書に乗せたくなる現代史を経済視点で
本著のタイトルにあるように「戦後」どのような時代であったかを“経済”という視点でまとめてくれた本です。
著者が戦前の生まれで大空襲を経験し生き残ったお一人でいらっしゃる経験が、この本の重みを感じさせます。
著者が経済を専攻されてきたからもしれませんが、まさに著者自身の“自分史”のようなまとまりです。
戦後の日本は、戦後に整えられた民主主義と軍事費の負担が小さくなったことで経済成長が実現されたというのが一般的な見方のようです。
しかし著者は、実は戦前の1940年にすでに日本国内が総力戦のために整えた体制が経済成長の要であったという主張を展開しています。
この視点は著者が大蔵省で実際に勤務していた実体験を元に著者なりの考察と検証をもってまとめられています。
私にとっては初めて耳にする視点でしたし、なるほどと思わせるところがたくさんあります。
著者は戦後を次のような区切りでまとめています。
- 旧地主体制の崩壊と戦時体制の生き残り:1945年〜1959年
- 高度成長時代:1960年〜1970年
- 石油ショックと日本型システム:1971年〜1979年
- ジャパン・アズ・ナンバーワン:1980年〜1989年
- バブルと40年体制崩壊:1990年〜1999年
- 置き去りにされた日本:1980年以降
この流れをみると、戦時中に整えられた40年体制が基盤となって戦後の経済発展を実現し、日本型システムで幾多の試練を乗り切ったのだが、バブルと共に40年体制は崩壊し、同時に世界はどんどん成長して結局日本は置き去りになっている、という構図がわかります。
この本を読むにあたっておさえておきたいところ
キーワードは「40年体制」です。
すなわち1940年頃に作られた体制が基盤になっているという著者の主張が著者なりの根拠を持って説明されています。
日本の成長を支えたのは戦後に立ち上がったソニーやホンダのような会社だ、というイメージがあるものの、実際は松下も三菱も日立も東芝も戦前からの企業のほうが主力であった、というのも根拠の一つ。
そして今やその40年体制がうまく機能できる環境にないという現実を知るべきだという強い主張が見えます。
なので現在の政権、政策に対してはかなり批判的な立場をとっているように見えます。
そして大空襲を逃げ惑う経験、アメリカに留学及び勤務した経験、大蔵省といった官僚としての経験、こういった経験を通じて著者の思うところの「豊かな生活」という思い。
また「苦労して働いた人が報われるべき」という思いが、著者を突き動かしている気がします。
これから
「21世紀になってから日本は歩みを止めた」
「円安を歓迎するなんて一時しのぎでしかなく、今の世界情勢に対応しているとはいえない」
「これからの高齢化社会を支えるのは“高生産性”」
著者はそう本著で語っています。
先日紹介した「新生産性立国論」では「日本の経営者は無能」ときつく批判されていたことを紹介しました。
本著の「21世紀になってから日本は歩みを止めた」とかぶるところがあります。
私も円安になることが喜ばしい、というのはとても違和感を感じています。
なんせ通貨の評価が低いのですから。
自国の通貨の評価が高くなることが自国の利益につながる、本来はそういう構造が自然のような気がします。
今後の経済、政策に大きな影響を自分が与えられるとは思っていませんが、少なくとも自分は付加価値を上げることで経済活動を行っていく姿勢は崩さないようにしていきたいと思います。
この著書は冒頭に戦後史が年表になっていて、そこに自分の年令と出来事を書き込むことができます。
こうすると自分史と日本現代史、世界現代史を一望することができます(^^)
これもまた楽しいです。