本日の課題図書はこちら「日本語教のすすめ」。
著者の鈴木孝夫氏は大正15年生まれというから御年93歳くらいでしょうか。
著者は日本語の素晴らしさを学術的に考察し、もっと日本語を世界に広めようという気持ちが本書から伝わってきます。
私自身は日本語を世界に広めようという意見はともかく、学術的に日本語という言語の姿をわかりやすく説明してくれているという点で、とてもおもしろく読むことができました。
本著は以下の内容で構成されています。
- 日本語はどんな言語か
- 言葉と文化の密接な関係性
- 言葉の奥深さの一面
- 日本語に人称代名詞は存在しない
- 日本語を普及しよう
1. 日本語はどんな言語か
ここでは「なぜ音読みと訓読みが存在するのか」ということと「表音文字と表意文字の違い」について説明してくれています。
音読みと訓読みの両方が存在するのは日本が島国で占領された経験が19世紀以前になかったことが大きく影響しているそうです。
この経緯は初めて聞く概念だったのでとても興味深い(^^)
また日本語って同じ「音」の文字(漢字)が多いので音を聞いただけでは意味がわからないことが多いですね。
「ハシ」と聞いても、「橋」なのか「箸」なのか「端」なのか。
でもこうやって文字にすると意味が伝わります。
これが大きな特徴の一つで文化たるゆえんの1つでもあるようですね。
そんな性質を他言語と比較してわかり易く説明してくれています。
2. 言葉と文化の密接な関係性
ここでは、言葉が違うと「常識」や「普通」の尺度、軸が異なってくる、というお話。
我々は日常会話でよく「普通は・・・」なんて使ってしまいますが、「普通」ってどういうことでしょうね。
多くの人が賛同する考え方、でしょうか。
「多くの人」ってどういう範囲でしょう。
世界で見た時、例えば日本で家の中では靴を「ぬぐ」のが普通ですが、アメリカでは「ぬがない」のが普通です。
どっちが普通でしょうね(^^)
これはお隣さんでも同じでしょう。
食事をする前にお風呂に入る家と食事の後にお風呂に入る家、どちらが普通でしょう。
このように立ち位置がかわると普通の概念が変わってきます。
この章では多様性についての示唆を含んだ味わい深い内容だと思います。
3. 言葉の奥深さの一面
ここでは、なんでこんな表現を使うのだろう、という言葉の不思議な面にスポットをあてて、言葉に多種依存性があることを教えてくれます。
たとえば「鼻」。
鼻の大きさを表現するのに「高い」「低い」を使いますね。
でも象の鼻は「長い」「短い」という表現を使います。
なぜでしょう?(^^) なんてことです。
「日本酒」という言葉と概念。これも「洋酒」があるから使われている言葉ですね。
ここも「当たり前」に使っていた言葉の意外な一面をみせてくれる面白い章です。
4. 日本語に人称代名詞は存在しない
これは言われて「なるほど」と思わせる章でした。
お父さん、お母さんといった親族用語を使う状況、名前で呼ぶ状況、人称代名詞を使う状況と分類して深掘りしていくと、実は日本語は一人称、二人称といった人称代名詞が存在しない言語でそれ故に多彩な表現方法が存在していることを示してくれています。
「私」とか「あなた」とかあるじゃん、なんて思うのですが、実際は普段の会話で「私」や「あなた」はそんなに使わないんですよね。
むしろ省略して十分会話や文章は成立しているんです。
へ〜、って思いました(^^)
5. 日本語を普及しよう
私は人に強制することを好まないので、普及活動は好きではありません。
なのでこの部分は私はコメント控えます(^^)
普段何気なく使っている言葉のルーツや背景、特徴などを知ることは、使うこと自体を楽しめる機会を産んでくれます。
この本でも書いてありましたが、「同じ音を発する言葉が多い、という欠点をあえて使って言葉遊びをする文化」も面白いですよね。
「そこの"ハシ(橋)"をわたってくだせ〜」
「そんな"ハシ(端)"を歩いたら川に落ちてしまいまっせ」
なんて具合に(^^)
そして言葉と文化は本当に密接に関連しているんだな、と改めて感じます。
戦争によって他地域を占領し言葉をむりやり母国語に矯正させる行為は、その地の文化をも征服することであり、物理的な支配にとどまらず人の心をも支配する、そういう側面があるんだなぁ、とさえ感じます。
言葉という視点でいろいろ考えたり感じたりするきっかけをもらえた本でした。