読書会の今回の課題図書はこちら。
認知科学、言語心理学、発達心理学を専門とする今井むつみ氏とオノマトペの研究など認知・心理言語学を専門とする秋田喜美氏の共著。
ブーブー、とかワンワン、といった赤ちゃん、小さなお子さんが使うこの繰り返し言葉をオノマトペといいます。
本書はこのオノマトペとはそもそもどんなものなのか、という第1章からスタートし、言葉のもつ「アイコン性」について検証、そこから、オノマトペは言語といえるのか、そもそも子供はどうやって言語を習得していくのか、AIとの関係は、ヒトと動物をわけているものは、言語の本質とは、AIとヒトとは何が違うのか、という根本的な問に深く入っていきます。
269ページの新書ですが、なかなか内容が濃く、数本の論文がギュッともりこまれているような印象をうけました。
「はじめに」でも記載されていますが、言語の本質を考える上で「記号接地問題」について考える必要があり、本書も「記号接地問題について本書で考えていく」と記載されています。
記号接地問題、って難しそうですね(^^)
そもそも言語って記号だよね、という見方がされていましたが、単なる記号じゃないよね、という考えが主流だったんですが、ではその記号に意味があることをどうやって身につけるのだろう、すなわち「言語という記号」をどうやって「身体に身につける、すなわち接地」させるのだろう、という問いかけです。
AIの研究からでてきたこの問題。
「梅」という言葉について、「すっぱい」という言葉があてはまるとすると、「梅」=「すっぱい」と理解できますが、では「梅」ってどんなもの?「すっぱい」ってどういうこと?という”意味”がなければ、「知った」ことにならないですよね。
どうやって結びつけるのだろう。どうやって子どもたちは身につけていくのだろう。
そんな疑問から始まります。
本書ではもう一つ、ヒトと動物を切り離している要素の一つ「アブダクション(仮説形成)推論」という学ぶ力を取り上げています。
推測の仕方には、「演繹法」と「帰納法」が有名ですが、さらに「アブダクション推論」が加わります。
本書にあげられている例を引用してみます。
①この袋の豆はすべて白い(規則)
②これらの豆はこの袋の豆である(事例)
③ゆえに、これらの豆は白い(結果)
これは演繹法です。ある規則が正しいと仮定し、その事例が正しければ、正しい結果を導く方法です。日本人は日本語を話します。この人たちは日本人です。ゆえに、この人たちは日本語を話します。という感じ。
①これらの豆はこの袋にある(事例)
②これらの豆は白い(結果)
③ゆえに、この袋の豆はすべて白い(規則)
これは帰納法です。この人たちは日本人です。この人たちは日本語を話します。だから日本人は日本語を話すでしょう。という感じ。
アブダクション推論はこんな感じになります。
①この袋の豆はすべて白い(規則)
②これらの豆は白い(結果)
③ゆえに、これらの豆はこの袋から取り出した豆である(結果の由来を導出)
日本人は日本語を話す。この人たちは日本語を話している。だからこの人たちは日本人だろう、という推測の仕方です。
このアブダクション推論が、実は考える元になっているんじゃないか、という説を本書で紹介してくれています。
今ある知識を活かしてさらに知識を増やすことをブートストラッピングといいますが、このブートストラッピングを駆動する立役者がアブダクション推論ではないか、ということです。
ちょっと難しい話になりましたが、これからのヒトとAIの関わりを考えたり、身近であれば英語などの第二言語を学ぶときだったりするときに、この本で紹介されている視点や考え方はとても参考になる気がしました。
また言葉は文化でもあり、言葉が示す範囲が異なることを理解することで、文化の違いを理解する、すなわち多様性を意識することにもつながるのでは、とも感じます。
これもなかなかいい本でした(^^)