NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業
今回の課題図書は「Netflix」。
今や映画やドラマのストリーミングでは最大手の1つにまで成長した巨大IT企業です。
アメリカを代表するITUNES企業といえばGAFAが有名ですが、最近はNetflixのNも加えてFAANGと呼ばれているようです。
そのNetflixの創業からの歴史を詳しく紹介してくれているということで、楽しみに読みました。
いや〜、これはなかなかの大作ですね。
単なる会社の創業記録や伝記ではない、実に生々しいドキュメンタリーです。
Netflixといえば、創業者のリード・ヘイスティングが「アポロ13号」のビデオテープをレンタルした際に返却が遅れて延滞料金を払ったことが、オンラインでのDVDレンタルサービスを始めるきっかけになった、というのがオフィシャルの”ストーリー”です。
Wikipediaにもそうかかれています。
「でもそれは事実と違う」とこの本はのっけからバッサリやっています。
「企業というのは自分に都合のいいようにストーリーをしたてる」とも。
著者ジーナ・キーティング氏はヘイスティングや共同創業者だったマーク・ランドルフを始め、Netflixの主要メンバーに膨大な取材をしているだけでなく、Netflixを最後まで苦しめやがて破産したブロックバスターの関係者(特にCEOだったアンティオコやエバンジャリストなど)にも取材をして多くの情報を引き出し、Amazonや映画会社なども巻き込んだ業界全体を描いています。
正直、Netflixにこの本を原作とした映画を作って欲しいと思ったくらいです。
だいたい企業を題材とした書籍は、大きく成長して世の中で注目を浴びたから、だいたいサクセスストーリーで進み、すごいすごい、で終わることが少なくありません。
でもこの本は「ヘイスティングすごいすごい」にはなっていないんですね。
むしろ「いいのかこいつ」みたいな記述もあったり(^^)
むしろ敵対するブロックバスターのCEOだったアンティオコの方が、経営判断に失敗したところはありつつも、人として、ベンチャーを引っ張るリーダーとして、かっこよく描かれているかもしれません。
ヘイスティングを支えてきた人たちはことごとく辞めているか、辞めさせられています。
一方アンティオコを支えてきた人たちは、彼が辞任に追い込まれたときに一緒に会社を去ったり、アンティオコの写真を携帯の待ち受けにしたり、と慕われ方が全然大きいんです。
Netflixとブロックバスターを中心に主導権争いをしているところの描写は、なかなか引き込まれます。
登場人物が経営者たちであることから、経営者の目線での描写になりますが、タフな仕事であることが垣間見れます。
投資家、株主、経済界(ウォールマートの業界人)などとの主導権争い、債務支払猶予の画策、ユーザーからのつきあげ、部下に対する徹底的な分析の要求、などなど・・・
また同時にものすごいエネルギーも伝わってきます。
そもそも今までにないサービスをやろうとしていて、必要な情報、見解を得るために、必要なツールがあるわけでなく、そこから自分たちで開発して作り出し、デバッグして使いこなしていく、ということを無限に繰り返しているようです。
どこからそのモチベーション、パワーがでてくるのでしょう。。。
勝者となったNetflixのヘイスティングと、Netflixを極限まで追い詰めながら、投資家の理解を得られずに志半ばで舞台から降りたブロックバスターのアンティオコ。
アンティオコが経営判断を誤った点はありますが、ヘイスティングも同様の失敗はたくさんしています。
徹底的な数値化にこだわり、どんなに周りに言われようと意見を曲げない頑固者だったヘイスティング。
一方相手をやり込めるためには手段を選ばず目先のPLを気にしない攻撃力をもちながら、投資家アイカーンに封じられてしまったアンティオコ。
この2人に共通しているところ、それは「先見性をRespectされていた」ことかもしれません。
新しい環境に身をおいたとき、「まずは何でもいいから圧倒的な結果を出して、一目置かれること(Respectされること)」がチームをまとめるときに大きな武器になる、ということを聞いたことがあります。
「Respectされる」ってリーダーにとって大切な要素の一つかもしれません。
一方、この本を読む限り、Netflix最大のライバルブロックバスターが倒産したのは、投資家が経営にしゃしゃりでてきたから、という印象を持ちました。
「所有と経営の分離」は言われて久しいですね。
株式会社のルールとして、会社の株を所有者(株主・投資家)は会社のオーナーでもあるわけです。
株主にとって会社は資産でもあるわけです。
その資産を増やす役目が「経営」です。
役割も能力もまったく異なるんです。
所有と経営の分離がいいかどうかは一概に言えません。
ただ、能力もないのにオーナーだからと権力をふりかざして経営に口を出すとこのようなことになったいい例だと思います。
この本の魅力はそんな内情を知った人でないと知らない生々しい話が綴られていることかもしれません。