2020年最初の課題図書はジャレッド・ダイアモンド氏著作の「危機と人類」(上・下)です。
本当は読書会は来週なのですが、内容が濃いので何度かにわけて投稿したいと思います。
どんな本か
著者のプロローグで本書のテーマについて述べられています。
7つの近代国家において数十年間に生じた危機と実行された選択的変化についての比較論的で叙述的で探索的研究である
ここで著者は「7つだけの国」を取り上げて紹介しています。
フィンランド、日本、チリ、インドネシア、ドイツ、オーストラリア、アメリカ
これはプロローグでも「自分自身の経験の多寡を基準にして選んだ」とあり、パーフェクトを目指したものではないことを予め断っています。
このプロローグを読んだ印象はとてもフェアな姿勢をもっている 、です。
この本、なかなか示唆に富む本だったので、ネタバレにならない程度で各章について何回かに分けてコメントしていきたいと思います。
危機の帰結に関わる要因
第1章のタイトルは「個人」とありますが、ここでのキーは「危機の帰結に関わる要因」です。
すなわち「危機の解決の成功率を多少なりとも上げる要因」のことで、危機療法の専門家たちが突き止めた要因のうち12個をこの本では取り上げています。
それを「個人」「国家」という視点で紹介してくれています。
【個人】
- 危機に陥っていると認めること
- 行動を起こすのは自分であるという責任の受容
- 囲いをつくり、解決が必要な個人的問題を明確にすること
- 他の人々やグループからの、物心両面での支援
- 他の人々を問題解決の手本にすること
- 自我の強さ
- 公正な自己評価
- 過去の危機体験
- 忍耐力
- 性格の柔軟性
- 個人の基本的価値観
- 個人的な制約がないこと
【国家】
- 時刻が危機にあるという世論の合意
- 行動を起こすことへの国家としての責任の受容
- 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること
- 他の国々からの物質的支援と経済的支援
- 他の国々を問題解決の手本とすること
- ナショナル・アイデンティティ
- 公正な自国評価
- 国家的危機を経験した歴史
- 国家的失敗への対処
- 状況に応じた国としての柔軟性
- 国家の基本的価値観
- 地政学的制約がないこと
国家についてはこの後の各国の事例で触れられていきますのでちょっと個人にについて。
私もいくつか危機がありましたが、そのうちの一つは前職でプロジェクトリーダーだったプロジェクトでした。
商品開発・設計・プロモーションが製品リリース半年前まで驚くほど順調に進み社内でもその進捗が表彰されるほどでした。
ところが技術的な問題が発覚し計画が台無しになります。
当時業界でフォーマット競争の真っ最中で、私の製品の成功の可否が今後の生き残りに大きく影響するので、計画の見直しはフォーマット自身の存続の危機でもありました。
最終的には技術的解決は叶わず、屈辱の仕様変更(スペックダウン)で市場投入することになり、これをきっかけに大手の顧客が離れていってしまいました。
この危機に対峙したときの自分を「個人の危機解決要因」に当てはめてみます。
- 危機に陥っていると認めること→これは自覚していました◯
- 行動を起こすのは自分であるという責任の受容→この責任も強く感じていましたし最後まで行動をとりました。◯
- 囲いをつくり、解決が必要な個人的問題を明確にすること→どこまでできる、どこからができないという切り分けが的確にできなかった反省があります。✕
- 他の人々やグループからの、物心両面での支援→いろいろな部署から手を差し伸べてもらいました◯
- 他の人々を問題解決の手本にすること→前例のないことだったので手本はありまえんでした✕
- 自我の強さ→自信がゆらいでしまい強くいられなかったと思います✕
- 公正な自己評価→過大、過小評価が混じって全然駄目でした✕
- 過去の危機体験→これほどの危機に直面したことはなかったです✕
- 忍耐力→体力・精神力は限界でした✕
- 性格の柔軟性→あるほうだと思っていましたが今から思えば不足✕
- 個人の基本的価値観→思い上がっていたと思います✕
- 個人的な制約がないこと→このプロジェクトについては何もなかったです◯
このように危機解決要因は4つしか当てはまらず、残り8つは不足あるいは存在していなかった状況だったことが今から冷静に考えると見えてきました。
4や5は他に依存する面が大きいですが、私にとっては7が最も大きな課題です。
孫氏の兵法ではないですが「己を知り、敵を知ることで、危うからず」とあるように、自分を公正にみる力は危機解決には大事な要素なんですね。
未だに「自分をわかっていない」とよく言われますが(笑)これでも昔よりはマシになったと思います(^^)
フィンランド
(画像:ANA Travel Lifeのページhttps://www.ana.co.jp/travelandlife/feature/original/vol223/より引用)
フィンランドについての予備知識は、北欧にあってノルウェー、スウェーデンと似たような国、という程度というお恥ずかしいくらいのレベルでした。
著者はフィンランドに数多く訪問経験、滞在経験がありフィンランド語も使えるくらいだそうです。
フィンランド語って、英語、フランス語などのヨーロッパ語系ともロシア語のようなキリル文字系とも違って、言語の独自色が強いそうです。
なので非フィンランド人にとっては学ぶにはとても難解な言語だそうです。
もともと自由主義、民主主義でフィンランド人というアイデンティティの強かった国が、ソ連という強大な国からの侵略という危機を迎え、かつてのバルト三国や東欧諸国のように、併合あるいは共産政権による支配にならなかったその経緯を紹介してくれています。
自国の10倍もの人口、軍事力を持つ国がいつでも攻めてこようとしている、そして実際に攻めてきて戦争になったという経験が、フィンランド独特の政治体制を生むことになったことを初めて知りました。
この章を読むだけで、今日本のテレビで好き勝手いっている無蔵のコメンテーターと称する人たちの発言に、より一層嫌悪感を感じざるをえません。
現実を見据えてある犠牲をもって大切なものを守っている姿がわずか80ページ弱で羽化が知ることができます。
著者も自分の無知なるがゆえにとても失礼なことをしていた、と本書で触れています。
自分が知らないのに自分の価値観や世界観に当てはめて、勝手な評価をすることの傲慢さや恥ずかしさを感じ、改めて自らを戒める気持ちになりました。
危機への対処という内容ではあるものの、フィンランドの歴史の一旦を見て、他国には他国の歴史があることを認識するということだけでもこの章を読む価値はあります。
次章は日本です(^^)