今回の読書会の課題図書は、福岡伸一氏著作の「動的平衡」でした。
何やら難しいタイトル(^^)
「動的」とは「止まっていないで動いている状態」というイメージ。
「平衡」とは「安定している状態」というイメージ。
動いていて安定?
なかなか難しい感覚ですよね。
例えば自転車を思い出してみてください。
止まっている補助輪なしの自転車に乗っても立っていられるのはなかなか困難ですね。
でも自転車を漕いでいると安定して自立できてます。
動いていて安定が保たれている、これが動的平衡のイメージです。
著者は「生物:いきもの」の定義はこの「動的平衡」に尽きる、という主張をもっていて、その根拠と背景について語っているのがこの本です。
プロローグから第8章まで2009年に刊行された「動的平衡」に掲載されたものを新書化し、その際に第9章を追加したということです。
確かに第8章まではエッセイに近い読みやすさがありますが、第9章は少々数学的な見地にたっているため、数学が苦手な人には若干読みにくくなっているかもしれません。
ただ第8章まで展開していた話を少し学術的な表現でまとめるという意味では第9章の存在意義はあるような気がします。
私は学生時代物理・化学を専攻していたので、「平衡」という概念はもっていたので、「動的」という言葉がつくのは新鮮に感じました。
プロローグではちょっとしたエッセイ。
第1章は「脳にかけられたバイアス」と題して「この目で観ている世界はありのままの自然ではなく、脳の特殊な操作によって加工されデフォルメされたもの」という話を紹介しています。
第2章は「汝とは『汝の食べたもの』である」と題して「我々の身体は食べたもので作られていて、消化は情報の解体である」という概念を紹介しています。
第3章は「ダイエットの科学」と題して「食べた量=体重増加、ではない」ことを説明してくれています。
第4章は「その食品を食べますか」と題して「添加物や遺伝子組み換え品についての危険性」について言及しています。
第5章は「生命は時計仕掛けか?」と題して「ES細胞、iPS細胞、STAP細胞など生物学の発展に大きく寄与した発見」について解説してます。
第6章は「ヒトと病原体の戦い」というまさに今日の話題にヒットする題材で「細菌、ウイルス、プリオンの概念と病原体とのイタチごっこ」について解説しています。
第7章は「ミトコンドリア・ミステリー」と題して「DNA解析の発展」について言及しています。
第8章は「生命は分子の『淀み』」と題して「細胞が分解・生成を繰り返すことで生命は安定を保っている、という『動的平衡』の概念」にグッとせまります。
第9章は「動的平衡を可視化する」と題して「動的平衡を数学的見地にたって第8章で示した概念をよりイメージできるよう」まとめたものです。
生命とは分解と生成を繰り返し(動的)それぞれの速度のバランスを保つこと(平衡)で成り立っている、というのが骨子です。
この本を読んで、私が運営しているシェアハウスや周りの社会も同じことかもしれない、と感じました。
つまり、「同じ状態でい続けているわけではなく、少しずつだけど古いものは棄て新しいものを組み込むことで変化し続けている」ということ。
街ナカも店舗がかわったり、建物が変わったり、道路がかわったり、ルールが変わったりと実は常に変化し続けています。
シェアハウスもオープン当初に比べたらいろいろなところに変化が起きています。
この「スクラップ&ビルド」がバランス良く続いているとその社会は「生きている」感じがします。
生物の「動的平衡」の観点では、生成より分解がわずかに先行することで生命力を維持するというモデルが「ベリクソンの弧」として提案されています。
この「ベリクソンの弧」は、生成と分解という新陳代謝と弧の消滅にともなう寿命という概念をもたらしてくれるとても興味深いモデルです。
日々のことで目一杯になってしまう現代社会ですが、この本は「生きる」ということや「生物」というものを俯瞰(ふかん)的にみるきっかけを与えてくれる、そんな印象です。