48歳からの挑戦

47歳で脱サラ、48歳で起業したおじさんの奮闘ぶりをご紹介しています

読書会〜「暇と退屈の倫理学」

昨日は月末の振返りを投稿させていただいたので、1日遅れで読書会の投稿です。

 

今回の課題図書はこちら。

 

なんとも不思議で堅苦しそうなタイトル(^^)

 

「暇」や「退屈」に関心を寄せることはないだろうし、「倫理学」というとちょっと近寄りがたいイメージもあり、何も知らないでこのタイトルだけを見たらおそらく手にしなかったと思います(^^)

 

全部で500ページもある分厚い文庫本です。

 

さてさて、では本書はどんな本なのか。

 

大げさに言えば「自分はどんな世界が好きで、何を理想として、どのように生きたいのだろう」と考える時に使えるたくさんの視点を用意してくれた本、でしょうか。

 

著者は哲学者でもあるので、哲学の本にありがたちな、なにかこねくり回したようなわかりにくい表現で難しい文章を恐れますが、かなりの部分が哲学本苦手の私でもわかるくらい、優しい文章で記述してくれています。

 

まえがき

著者が本書をまとめるきっかけの一つとなった小さな出来事が紹介されています。

 

序章「好きなこと」とは何か?」

多くのことが成し遂げられた今新世界をつくることがない今の若者たちは不幸だ、というイギリスの哲学者ラッセルの言葉をきっかけに、以前「暇」と「退屈」は豊かな人達が持っていた贅沢であったことを紹介し、本書のタイトルを問題提起していきます。

 

第1章 原理論

ここでは多くの哲学者が取り組んできた「暇と退屈とは」という考察の流れを紹介しながら著者が考察していきます。

 

ハイデッガーパスカルニーチェ、スヴェンセンといった名だたる哲学者たちがたくさん登場してきます。

 

すごいことに本書の著者は彼らの考察内容の問題点をそれぞれ指摘し、その矛盾点や想定される原因について検証していくのです。

 

そして「退屈」が「人間の暮らし」と切ってもきれない関係にあることを示します。

 

第2章 系譜論

この章から本書の特徴が現れます。

 

哲学から離れ、人類の歴史に目を向けるのです。

 

狩猟生活から定住生活への転換(定住革命)がどうも関連あるのではないか、という視点を見せてくれます。

 

日本では狩猟生活時代は縄文時代と言われていますが、新しい発見も続いていて、これまで習ってきたことがいろいろ塗り替えられてきている、私も注目の時代でもあります(^^)

 

第3章 経済史

「暇と退屈」は中世では有閑階級の特権でした。

 

下の階級の人達が自分たちのために仕事してくれるので、生きるために働く必要がなかったからです。

 

ところが資本主義の発展とともに一般人に「暇」と「退屈」がもたらされますが、有閑階級がもっていたそれらとは様子が違います。

 

このあたりの変遷を経済史という視点で語ってくれます。

 

第4章 疎外論

個人的にはこの章が一番難解でした。

 

ここでは資本主義の発展とともにもたらされた消費社会と退屈について哲学的に考察するため「疎外」という概念について扱います。

 

著者も「煩わしいと思ったら読み飛ばしていい」と言っています(^^)

 

ここではルソーとかマルクスとかハンナ・アレントといった超有名な学者達がでてきますが、著者は臆することなくそれぞれの考え方の「活かせる」ところと「問題をもっている」ところを抽出して、本書の問いかけに答える準備を進めていきます。

 

第5章 哲学

なんとハイデッガーの退屈論「形而上学の根本諸概念」がでてきます。

 

凡人には難解な内容を著者がまずわかりやすく伝えてくれます。

 

そして「暇で退屈である」という第一形式、「暇でないけど退屈している」という第二形式、「なんとなく退屈だ」という第三形式を定義します。

 

そしてハイデッガーの理論を批判的に検証していきます。

 

第6章 人間学

この章は哲学書としてはとてもユニークな章で、生物学的検証から人間から観る世界というものを具体化していきます。

 

私自身もこの章はとても興味深く読みましたし、本書で一番好きな章だったかもしれません。

 

キーワードは「環世界」。

 

生き物ごとに異なる「環世界」を持っている、という見方はなるほど〜と感じました。

 

この章で描かれていることを題材に1つブログの記事書けそうです(^^)

 

第7章 倫理学

これまでの検証をベースにまとめに入っていく章です。

 

過去の錚々たる名高い哲学者や学者たちの見解の問題点や欠点を指摘するのですが、そこを批判して彼らの理論を否定する、ということは目的ではなく、むしろ問題点、欠点を補ったり修正したりすることで彼らの理論を活用できないか、という検証をしているところが、すばらしい考察だなと感じました。

 

過去の貴重な検証時間を活かして次の世代につなげるこのやり方はとても共感します。

 

結論

著者も述べていますが、本書を読む時に目次で「結論」を見つけてこの章だけ読んでもおそらく意味はないと私も感じます。

 

大事なのはこの結論に至る考察と検証の道のりです。

 

付録 傷と運命

増補版で追加された章です。

 

興味深いのは「記憶は傷つくこと」ということ。慢性疼痛は記憶に残った痛みではないかという医学的検証があり、それらのメカニズムから運命というものを考察している興味深い記事です。

 

 

今回限られた時間で読了しなければならない制約があったので、少し読み飛ばしながらではありましたが、私にとっては中身の濃い意義のある本でした。

 

この本にあった言葉を借りて言うと、私にとっての新しい「環世界」でした。