今回の課題図書はこちら。
文庫本でわずか156ページほどですが、そこはさすが岩波文庫、そう簡単には読み進められません(笑)
インド独立前の1932年に当時イギリスの支配下にあったインドのヤラヴァダー中央刑務所に収監されていた、インド独立の父カンディーが、インド地域の修道場にあてて獄中で手紙を書いた内容をまとめたものです。
16の手紙と本書の訳者である森本氏による解説で本書は構成されています。
1つ1つの手紙の内容はどれも深く、いくらでも考えられる事柄ばかり。
ガンディーといえば「非暴力主義」。
でもこれはただ「暴力をしない」というだけではない、ということを本書でもガンディーが語っています。
ガンディーの手紙の中にあるキーワードの一つが「アヒンサー」。
日本語にあえて訳すと「愛」ということらしい。
もともと「殺生」を意味する「ヒンサー」という言葉に否定の意味をもつ「ア」という言葉が頭について「殺生しない」すなわち「不殺生」という意味となり、ガンディーは「生きとし生けるものすべてを愛する」という考えに発展させ「非暴力主義」に至ったといういいます。
なぜ「愛する」ことが「非暴力」になるのか。
「愛する」ことで相手を受け入れ、そして相手が誤っていることを「気づかせ」て、本人が納得した上で、誤った考えを改めることこそ「暴力」に勝る武器であり、そこには「暴力」は不要である、ということだそうです。
孫氏の兵法に『城を攻めるは下策。心を攻めるは上策。』とありますが、まさにこれに通ずる考え方です。
トルストイの影響を受け、インド地方特有の身分制度や婚礼のしきたり、南アフリカでの20年に及ぶ活動など、多くの体験を経てガンディーはある境地にたったように見え、かなり深い考察を短い文章にまとめて手紙としています。
ただこの本はそのガンディーの手紙だけだったら、かなり読みにくい本だったかもしれません。
それぞれの手紙ごとに注釈をつけ、そしておよそ本書の4分の1をさいて解説をまとめた訳者森本氏の貢献は大きいと感じます。
ガンディーの手紙自体は、う〜ん、簡単ではないな、と感じるのですがその後の注釈を読んで「なるほどね」と一歩前進する気がします。
そして最後の解説ではとても丁寧に当時のガンディーの苦悩ぶりを第三者の視点で語ってくれており、これが本書の理解への助けになっています。
その解説で「ガンディーは宗教家だろうか、政治家だろうか」ということを問うています。
そこにガンディーの言葉で返します。
「私にとって宗教なくしては政治はありえないーーーただし、ここに言う宗教は、迷信や、互いに憎しみ合うような盲目的な宗教ではなく、寛容の精神にもとづく普遍宗教のことである。道徳性や精神性のない政治はさけねばならない。」
政教分離をそのまま言葉尻で知った気になっていましたが、「どんな自治体でありたい」のか、市民がどうあったらいいのだろうか、ということは、倫理観であり道徳観であり、宗教観でもあります。
きっとガンディーのいう「普遍宗教」は、それぞれの宗教家からしたら「自分たちこそが普遍宗教だ」と主張するに違いありません。
ヒンドゥー教徒であったガンディーにしても同じかもしれません。
ただ世界の人々が普遍宗教でまとまったら争いはなくなるだろう、とガンディーは語ります。
ユヴァル・ノア・ハラリ氏のホモサピエンスによると、「宗教は人類の最大の発明の一つ」であり、人類の発展を促した功績は大きい一方で、古今東西争いの種でもあり多くの人々を巻き込んできたのも事実。
ガンディーにはいろいろな世界が見えてたのかもしれません。
私はガンディーの領域には遠く及びませんが、シェアハウスにてルールやマナーを遵守してもらうために、ただ「守ってください」というだけでは意味はなく、納得してもらわないとルールもマナーも浸透しないと思うようになりました。
具体的なやり方は容易ではありません。
ここ数年いろいろやっていますが、うまくいくともあればいかないときも。
もちろん、後者のほうが多いです。
30年前にこの本を読んでいたら、なんのことかさっぱりわからなかったと思います。
今この歳で今の経験をしているからこそ、少し感じることができるようになったかもしれません。
そういう意味では「人生の深みのリトマス試験紙」みたいな本かもしれません(^^)