岩波文庫100冊プロジェクトの2冊目は、パール・バック作の大地(一)。岩波文庫では大地は(一)から(四)と4冊あるので、2冊目から5冊目まではこの大地でいきます。
パール・バックは、本名パール・サイデンストリッカー・バック(Pearl Sydenstricker Buck、中国名:賽珍珠(サィ・チンシュ)で、1892年アメリカ合衆国ウェストバージニア州で生まれ、生後3ヶ月で父親の宣教師としての仕事のため中国に渡り、途中留学などでアメリカで一時的に過ごすも1938年まで中国で生活しています。
中国名の賽珍珠の「珍珠」は中国語で「真珠」を表すので、英語名のパール(真珠の意味)から字をあてたものと思われます。賽は「さいころの目」の「さい」でもあり、ゲームを表すのですが、Buckがドル札を意味することからあてたのかもしれません(個人的な推測です)。
大地は原題はThe Good Earthで、パール・バックはこの作品でピューリッツァー賞を受賞しています。
大地はその後「息子たち(原題:Sons)」「分裂せる家(原題:A House Divided)」と続編が続き、現在はこの三部作をまとめて「大地」としています。
大地(一):オリジナルの大地(The Good Earth)
大地(二):息子たち(Sons)
大地(三):息子たち(Sons)、分裂せる家(A House Divided)
大地(四):分裂せる家(A House Divided)
注)2023.02.21 大地(三)の構成を修正
という構成です。
さて、本の内容です。
舞台は中国安徽省(あんきしょう)のとある農村。主人公は貧農の王龍(ワンルン)。物語の最初の方で王龍が辮髪(べんぱつ)をしていることから清王朝の時代で、阿片(あへん)が横行していることや革命の話がでてくることから、清王朝末期の頃かもしれません。
清王朝は1912年に滅亡します。パール・バックが20歳のころなので、まさに当時の様子をよく知っていたことが想像されます。
ちなみに安徽省は満州で建国された清朝が最初に中国に地盤を組んだところです。
貧農の王龍は年老いた父と2人暮らしで、身体を洗う水を確保することが容易でなく、食事も小麦粉を水でといたものを飲むほど貧しかったが、地主黄家の奴隷の阿蘭(オラン)をめとります。
この阿蘭は器量もなく寡黙な女性でありましたが、よく働く女性で、出産食前まで畑で働き出産した翌日には畑に戻ってくるというツワモノ。
食事や衣類なども上手に作るものだから、王家では余計なお金を使わなくなり、少しずつお金がたまり始めます。
阿蘭の献身的な働き、戦乱という偶然、王龍の土地所有と農業への執着、これらが幾重にも重なって大金持ちになり、そして死んでいくという王龍の人生を軸とした物語として展開していきます。
では立身出世の成功物語か、というと全然違っていて、むしろ問題が勃発し問題が解決して幸せな生活になりそうになると、また新たな問題が生まれ、たくさんの歪を抱えたまま人生を終えていくという流れで、ハッピーエンドではありません^^;;
この本の特徴は、シーンがとても細かく描写されていること。建物、衣類、性格、社会情勢、人間関係、風習・・・
清の時代を知っているパール・バックだからこそのリアルな描写が、この小説に引き込まれる理由の一つだと感じます。
王龍には3人の息子と2人の娘が生まれるのですが、長女が知的障害者(この当時はそういう言葉がないので”頭の悪い子”のように表現されています)で、成り上がりでお金持ちになり増長していく王龍ですが、この子にはずっと優しい眼差しをむけていました。
これはパール・バック自身が知的障害のお子さんをもっていたことと無関係ではないように思えます。パール・バックのお子さんに対する気持ちを王龍を通じて表現していたのかもしれません。
先日両親に「久しぶりに大地を読んでいる」と話をしたら、リハビリ中の父が「確か主人公は王龍(ワンルン)だったな」とおぼえていたことに驚きました(^^)
母も読んだ覚えがあるようで、2人とも「あれはいい作品だった」と絶賛していました。
為政者の視点で時代が変化する時期を描くものは(自分とはかけ離れた立場だからか)浮世の感がありますが、庶民視点でのそれはある意味生々しさがあってその分かなり引き込まれるような印象です。
これから第2巻以降どう展開していくのか楽しみです。
岩波100冊プロジェクトリスト
1 風姿花伝 青1-1
2 大地(一) 赤320-1