岩波100冊プロジェクト5冊目、いよいよ大地の最終巻である4巻目です。
3巻目から続く第三部「崩壊した家」が完結します。
将軍王虎の息子王元を中心に物語は展開します。
父王虎に無理やり結婚させられることを嫌がった王元は、父の元から逃げ義母のいる都会へ逃げたことは第3巻のあらすじでお伝えしました。
第4巻では、王元を通じて中国の恋愛観、結婚観が大きく変化していく様子が描かれています。
王元の父の時代までの中国における女性への見方や恋愛観、結婚観はこんな感じでした。
・女性は結婚をして子供を産み、夫の世話をすることが当たり前
・結婚は親が相手や時期などすべてを決める
・したがって親が仲人になる
・結婚前の男女交際は認められない。ましてや婚前交渉などもってのほか
・一夫多妻制
本書では「旧式」という表現をされていました。
それが清王朝の弱体化によって海外の文化が流入することで、上海などの「海岸の都市」を中心に若者がこれらの風習に抵抗をするようになります。
・女性も仕事をもって生きることができ、結婚は義務ではない
・結婚相手は当人同士で決める
・仲人は不要
・一夫一妻制
「新しい時代」がやってきた、ということで王元の周りにいる若者たちは、この新しい考えにのった行動をするようになり、王元は「旧式」からの脱却に多くの葛藤をうみます。
その葛藤の様子がこの第4巻の軸になっています。
王元の中にある「旧式」の思想からうまれる貞操観に王元はいろいろ迷い、苦悩し、そこから少しずつ脱却していく様子が丁寧に描かれています。
第4巻は最終巻ということもあり、巻末に訳者による解説が35ページにも渡って掲載されています。これが実に丁寧で、当時の清王朝をめぐる世相、著者パール・バックの人生を紹介しながら本作品について詳しく解説してくれています。
さて、「旧式」の考え方ですが、日本では少なくとも江戸時代まではほぼ同じ制度だったと思われます。
明治時代になって西洋の思想が取り込まれることで、一夫一妻制が民法で定められますが、女性に対する見方は根強く残り、私の両親の世代でも親が準備した見合いで結婚をされている方はまだたくさんいらっしゃいましたし、私の代でも結婚式に仲人をたてることは当たり前でした。
日本では一夫一妻制は民法で定められましたが、女性の社会進出、結婚相手の決め方、仲人については、明治時代から昭和にかけて徐々に変わってきたようですね。
自由恋愛によって結婚相手を決めるのは戦前戦後直後世代ではまだ見合いと混在で、団塊の世代あたりから自由恋愛が主流になり、私の世代ではほぼそれが当たり前になっていたかな。
仲人については、私の代では実質不要だったのですが「仲人をたてる」習慣に従っていただけで仲をとりもったわけではないけど、お世話になった上司に頼むみたいな流れで実質形骸化していた頃ですね。私のちょっと下の世代では仲人をたてないほうが普通になってるようです。
女性の社会進出という意味では、両親の世代ではまだまだ少数派でしたが、私の世代では結婚前は働くことが一般的で結婚後は専業主婦というパターンが多かった印象で、今では共働きが一般的になってきた印象です。
また、清王朝が崩壊するこの時代に生きていた若者たちをみると、日本で言うところの明治維新前の若者たちも近かったのかもしれません。
外国人の渡来とその行動に反発して、攘夷運動につながったり、政府の弱体化に乗じて革命を起こそうとしたり、外国から流入するモノや思想に感化されて外国かぶれと呼ばれる人たちが現れたり。。。
そして王元のように多くの若者達が当時「旧式」と新しい思想とのはざまで葛藤をして人生を送っていたのだろうかと想像します。
解説にも記載されていましたが、本書は当時の中国の社会をきめ細かく描写はしているものの史実を正確に表しているものではないようです。
それでも当時の中国にタイムスリップしているようなスケールを感じさせる壮大な小説でした。
岩波100冊プロジェクトリスト
1 風姿花伝 青1-1
2 大地(一) 赤320-1
3 大地(二) 赤320-2
4 大地(三) 赤320-3
5 大地(四) 赤320-4