岩波100冊プロジェクトの4冊目は、大地シリーズ全4巻のうちの3巻目です。
パール・バックの三部作の第二部「息子たち」と第三部「分裂せる家」の境界がこの第3巻になります。
第3巻の「息子たち」のパートでは、王龍の三男王虎の人生が軸となり、長男王一、次男王二はほぼ脇役。
王虎は勢力を伸ばしてついにはある地域を制覇して地盤を固めます。
他人を信用せず、女性も毛嫌いする王虎は、自分の子供こそ信用に足りると信じて、子供を生むために妻を用意するよう2人の兄に要求します。(相談ではなく、”要求”というところが王虎らしいところ)
遊び人の長男は教養のある女性を用意し、ケチで金儲けばかり考えている次男は「丈夫で家事ができればいい」ということで田舎の女性を用意します。
王虎は2人同時に妻をもらい、やがて戦争のためその地を離れます。
数ヶ月して戻ってくると2人の妻がそれぞれ子供を産んでいました。教養ある女性は女の子、田舎の女性は男の子でした。
自分の跡取りしか考えていない王虎は男の子にしか関心をもちません。
女性を信用しない王虎は男の子が小さいときから母親から引き離して自分の元で育てることにしました。これが後にこの男の子の人格形成に大きく影響を与えます。
その後教養ある女性は子供に恵まれず、自分にも子供にも関心をもってもらえないということで王虎の元を去り「南の海岸の都会」に移り住みます。
第二部「息子たち」はこの後、王虎とその息子を中心に描かれ王虎が年をとって息子がほぼ成人になるところまでが描かれています。
王虎、その息子、妻たち、王虎の部下、王虎の2人の兄など、登場人物のキャラクターがとても丁寧に細かく描写されていて、長い小説なのですが登場人物のイメージがしやすいのが「大地」の特徴の一つというのが私の印象です。
そんな描写で印象的なのが、当時の人達の思慮の浅さ^^;;
私も決して思慮深い方ではないのですが、そんな私でさえ「え〜」というくらい短絡的。でもこれが当時としては当たり前の人物像で、かつ当時の日本もそんなに差がなかったのではないか、と思うことはそんなに難しいことではない気もします。
兵士はとにかく「人を殺すこと」が好きで「略奪」することを楽しみに戦い、そのために命を落とすことをなんとも思っていない、というが兵士像。
そんな兵士を束ねるのは、「褒美」と「恐怖」しかない。
自分がとった行動がその後どういう影響を与えるか、なんていうことは微塵も考えないんですね。
戦乱が当たり前だった時代はこの小説の中だけでなく、日本でも海外でも同じだったのではないか、と仮説をたててみると、徳川vs豊臣で大阪城に浪人たちがたてこもり秀頼が担がれてしまったこと、明治維新で浪人たちが従わず、西郷隆盛が担がれてしまったこと、なにか同じ臭いを感じます。
もしそれが「兵士」というものであったなら、戦乱の時代はなんとも恐ろしい時代だったわけで、今戦争を起こすということはこの時代に逆戻りするようなだろうと思ってしまいます。
思慮の浅さは、兵士だけでなく、農民、商人、いずれの人たちにも見られます。これは生きていく上での情報量の少なさ、活動範囲の狭さがゆえのことなのかも、と私は想像しました。何よりも「生きていく」ということで精一杯だからという環境が大きな影響を与えているのでしょうね。
第3巻の後半は第三部「分裂せる家」では、王虎の息子王元(ワンユワン)を軸とした展開となります。
紆余曲折を経て(あまり詳しく書くとネタバレになっちゃうので^^;;)、王元は父王虎の教養ある夫人が娘と一緒に移住した「海岸の都会」に向かいます。
この「海岸の都会」はその描写内容で、おそらく今の上海であることが想像されます。清朝末期の頃にアヘン戦争で破れて上海を開港、諸外国が上海租界を形成して多くの外国人が駐留していた頃と思われます。
かの坂本龍馬もこの時代に上海にいったかもしれないと言われています。(まだ諸説ある一つとされ、確証はまだないようです。)
古い教育を受けていた王元は「海岸の都会」の様子に面食らいます。
結婚感、男女の立場、学問の立場、家族構成などで新旧の価値観が対比されるのは、時代が大きく変わる転換期によくあること。
まあ、いつの時代でも一世代違うと、「今の若いものは・・・」とか「ジェネレーションギャップ」といった言葉が頻発されるということは、2〜30年くらいで十分価値観のアップデートがされ続けているのかもしれません。^^;;
王元は、軍人としての古き教育を受けながら、当時最新の欧米社会の文化に触れて大きな刺激をうけています。
第1巻は貧農王龍が、第2巻は王龍の三男王虎が、第3巻は王虎から王虎の長男王元を軸とした展開でした。
第4巻ではどんな展開になるでしょう。
岩波100冊プロジェクトリスト
1 風姿花伝 青1-1
2 大地(一) 赤320-1
3 大地(二) 赤320-2
4 大地(三) 赤320-3