今回の課題図書はこちら「刑法的思考のすすめ」。
副題に「刑法を使って考えることの面白さを伝えたいんだよ!」とありますように、刑法そのものというよりは、刑法の運営する上での考え方は意外と皆さんの周りの生活にも活かせるし、考え方自体とても面白いよ、ということを伝えたいことが著者の狙いのようです。
その「面白い」という考え方ってどういうことか。いってみればロジカルシンキング、いわゆる論理的思考というところです。
たとえば「人を殺す」。
なかなか物騒な言葉ですが、これ、本書の第一章ででてくる練習問題です(笑)
「人を殺した」ら刑法199条で殺人罪として「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」とされています。そう下手したら死刑になってしまうんです。
「人を殺した」と簡単にいいますが、「殺した」ってどういうことでしょう。
ピストルをAを狙って撃ったらAが死んだ:これなら「殺した」と言えるかも
ピストルをAを撃ったらAでなくで違う人BにあたってBが死んだ:これは「殺した」と言えるのだろうか。
ピストルをいじっていたら突然暴発して通行人CにあたってCが死んだ:これは「殺した」と言えるのだろうか。
暴漢Dに襲われたAがとっさに持っていたピストルを撃ったらDが死んでしまった:これは「殺した」と言えるのだろうか。
「殺した」かもしれないけど、「殺人罪」を適用するのはどうも、みたいな事例もありそうですね。
それが刑法的な思考の一つ。
定義について具体的に考えることも一つですが、定義された内容がどれくらいの範囲に及ぶのかを考察することも刑法的な思考だと本書は語っています。
先程の「人を殺した」でも、「殺そうと思って殺した」という人と、「やむなく殺してしまった」という人と同じ罪でいいんだろうか、というのは、感覚的にも「ちょっと違うんじゃないか」と感じられます。
考え方の基準というものをはっきりと定めて、その論拠につっこむ余地がある場合、そこを補うための基準をさらにつけて補強する、「刑法的思考」はそういう考え方の積み重ねだというのが私の解釈です。
自分のことで当てはめると、シェアハウスのハウスルールは近いものがあります。
私は「ルールを制定するのであれば、ルール違反の罰則も必要で、ルール遵守のための管理体制も必要」と考えます。
この中で大変なのは「管理体制」>「罰則の制定」>「ルール制定」の順です。
管理体制は、監視カメラをつけるとか活動記録をとるとか、そういった労力やコストを必要とし、そんな生産的でない活動や支出がいやなので、できるだけ管理体制を必要としない方向を目指したいと思っています。
となるとできるだけ「ルールをつくらない」方向である方がベター。
みなさんそれぞれ「住みやすい環境であってほしい」と思っていますが、その内容は十人十色。だからそれぞれの”住みやすさ”のズレが「グレー」な状態で吸収できれば、ある程度のことは「仕方ない」と受け入れられるんじゃないか、と考えてます。
グレーゾーンの幅が広ければ広いほど受け入れられやすい環境ですが、それを作るのはまあ時間がかかります。
自分がここ数年シェアハウス事業の規模拡大が無理だな、と感じるようになったのはそんなところも理由の一つかもしれません。
本書はそんな自分の世界とのちょっとしたオーバーラップを感じさせる本でした。
沢山事例があり、また自分で刑法つくってみよう、という実習的な内容もあり、とても興味深く読むことができました。
最近メディアで騒がれている特殊詐欺事件で、強盗殺人事件まで発生していますが、刑法では強盗殺人罪は「死刑または無期懲役」しかないんですね(刑法第240条)。しかも関わった人はその役割を問わず原則全員同罪だそうです(刑法第60条)。刑法の中でも最も重い罪ということができます。初めて認識しました。