岩波100冊プロジェクトの12冊目は前回に続いて日本近代文学(緑シリーズ)から夏目漱石の代表作のひとつ「こころ」。
これを選んだのは、まんがで読破シリーズで読んだことがきっかけです。
先にまんがであらかたなストーリを把握してから、本書に入りました。
あらすじがわかっちゃって面白くないのでは、と思われる方がいるかもしれませんが、私のような読書量の足りない人は、むしろちょうどいいくらいで、ストーリーが面白いことがわかっているので(本書は内容としてはかなり重たい内容ですが・・・)、ぐいぐい読んでいくことができました。
主な登場人物は限られています
私:主人公。学生(東京帝大と思われる)で、”先生”を慕う
先生:”私”に慕われる。暗い影をもっている。
妻:”先生”の妻
K:”先生”の学生時代の同郷の友人。
奥さん:”妻”の母。軍人の未亡人。
この小説は”私”による自らの語り、という構成をしていています。前回読んだ「人間失格」も同じように”私”による語りでしたね。
こころは「”私”と”先生”との出会い」「”私”と両親」「”先生”からの手紙」という3つの部でなりたっていて、”私”という視点から語られていますが、この3つの部で”先生”の変遷をみてとることができます。
「”私”と”先生”との出会い」では現在の”先生”の状況。
「”私”と両親」では”私”が東京を不在にしている間の”先生”の変化。
「”先生”からの手紙」では”先生”の過去が明らかになり、新たな展開に移ります。
この本の醍醐味は最後の「”先生”からの手紙」で、”先生”からの手紙だけの内容なのですが、岩波文庫本で全編300ページのうち157ページという実に半分以上を割いています。
「分厚い封筒で」とあるので、よほどの厚みだっただろうし、読むにも数時間かかるほどの内容の手紙と考えるとすごいボリュームですね。
この手紙でなぜ”先生”が暗い影を落としていたのかが明らかになりますが、”先生”の”こころ”の変遷が生々しく描かれています。
これこそ人が持つ様々な感情であり、弱さでもあるだろうと感じさせられます。
暗い影を落とし、熱い”私”をどこか冷めた態度で接する”先生”には、”私”がまさに自分の若かりし頃と重なるところがあったのかもしれません。だから自分の”妻”にも明かしていない過去の出来事について”私”に告白する気持ちになったのでしょう。
第2部で、”父”の様態が思わしくない”私”は実家へ戻り滞在します。”父”はどんどん弱っていき、そこで”私”は様々なことを考えます。ある程度今の自分と状況が近いだけに、このあたりは少しリアル感さえ感じて、”私”への感情移入される面がありました。
本来もっているであろう人の”こころ”というものを描いた秀作です。
たくさんある夏目漱石の作品の中でも、本書は代表作の一つに上げる人が多いのも納得な気がします。
以前夏目漱石の本として「吾輩は猫である」を読んだのですが、私にはダラダラしていて途中で断念したことがありました。本書「こころ」も第3部の「”先生”からの手紙」で少しそういう部分を感じるところがありましたが、展開が刺激的なこともあり読み切ることができました^^;;
岩波100冊プロジェクトリスト
1 風姿花伝 青1-1
2 大地(一) 赤320-1
3 大地(二) 赤320-2
4 大地(三) 赤320-3
5 大地(四) 赤320-4
6 方丈記 黄100-1
7 生物から見た世界 青943−1
8 アラン 幸福論 青656−2
9 方法序説 青613−1
10 君主論 白3−1
11 人間失格 緑90-4
12 こころ 緑11−1