今回の課題図書はこちら、「サカナとヤクザ〜暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う〜」でした。
作者はヤクザの取材や著作で有名な人で、私と同じ年(^^)
取材を通じて多くのヤクザと接触していたので、ある意味ヤクザの”知り合い”も少なくない(笑)
そんな著者ですが、決してヤクザを奨励するとか擁護するということではなく、あくまでも”事実”としてのヤクザ、暴力団の活動を「一次情報」を集めて、独自の視点でその裏側に迫ろうとする、まさにジャーナリストな人、という印象です。
そして本書。芸能界に日本なら暴力団、アメリカならマフィアが大元を取り仕切っている構図があったことはほぼ常識感覚です。映画ゴッドファーザーをみれば、あの超有名な歌手も庇護のもとだったのだろうということが想定されます。
著者も関連する本を出しています。
そしてこの本では、漁業に焦点をあてています。
この本を読むと、いかに漁業という世界がずぶずぶだったのか、その一端を垣間見させてくれます。
三陸のアワビ、北海道のなまこ、カニ、ウニ、東京の築地、千葉の銚子
この本で取り上げた地域です。
地球資源保護の観点で、漁業の乱獲が問題視されていますが、この本を読むと、日本はまぁひどいことやってます。
そしてはそれは日本だけではなく、中国、台湾、香港といったところでも同様。この3国についてはウナギを巡った密輸シンジケートが取り上げられていました。
この本の面白いところは、ただヤクザや半ヤクザが躍動している、ということだけを取り上げているのではなく、なぜそういう状況になったのか、というところにも視点をあてて取材をしているところ。
そして著者自身が直接取材して得た一次情報であるところがすごい。
根室は第二次世界大戦における北方領土の問題や、政府への不信感、ソ連の思惑といったところが複雑に絡んでいるであろうことを、取材を通じて浮かび上がらせています。
北方領土を主張しているがゆえに、北方領土での漁を取り締まることができないもどかしさ。
そう言えば2月7日は北方領土の日でしたね。
築地では、社会に受け入れられない人たちの事実上の受け皿になっていたこと。
中国で高額で取引されることから、あまりにも美味しいビジネスだったアワビやナマコ。
漁師の限られた娯楽である、赤線、賭博を取り仕切るために古くから暴力団の巣窟だった銚子。
その多くは通常ルートだけではなく、非正規なルート、つまり密漁によって得られた収穫で消費者の要求するボリュームを賄っているという実態。
この本では、消費者側の姿勢についても、ちくっといれています。飽食の世界に対する皮肉でもあるかもしれません。
「反社会的勢力」との関係は、就職や契約関係などで不適格条項として必ず登場しますし、多くの人は普段接する機会がなく、テレビなどで放映されることを対岸の火事のように見ていることと思います。
ところが我々の生活に関わるところのちょっと先に大きく関与している可能性が高いことを、この本は示しています。
多くの人がやりたがらない仕事をやっている面もあり、単純にいい悪い、好き嫌いだけで論じるような話ではないとは思います。
ただ、我々が”不必要に”求めることも、乱獲や密漁の横行を側面から後押ししている面も否定できない気がします。
結局誰が悪い、という話ではなく、人間の業の深さのなせることの一旦なのかもしれませんね。