久しぶりに読書会の課題図書以外の本を読みました。
先日「友情を哲学する」という本が課題図書となりました。光文社は最近の自社が発行した書籍のリストを巻末に掲載していて、この本の出版時期が比較的最近だったこともあり、比較的新書がリストされていました。
本書はその中の1冊。
税金についてちょっと関心をもったこともあり、どんな内容だろうと購入してみました。
本書は、税金がいろいろなところで、団体、企業により”中抜き”されて、結果として税金が必要以上に使われているという実態を、取材を通して明らかにした本です。
一般社団法人による中抜き、電通によるオリンピック開催費用のぼったくり構造、ゼロゼロ融資による国公立病院の不正、消防団など地域コミュニティーによる搾取の構造、乱立する基金、など税金の疲れ方としてかなり酷い実情を取り上げています。
著者の個人的意見が事実と混ざってしまっているところがあるが、取材を通して実態を明らかにする調査力は評価できます。
ここにあげられている様々な税金の無駄遣いの実態の原因は、本書の書き方では「人員不足による管理体制の不備」にある、との指摘です。
確かに結果的に諸々の使われ方を審査し、予実実績を一定期間管理する人員が確保できていないことは、著者の調査で明らかになっています。
問題は「なぜ人員が確保できていないか」というところ、にあるかと。
つまり、「多くの人員を必要とする」状態にあることがその背景にあるはずです。
私の印象では
・受け取る側のモラルハザード
このあたりに根本的要因を感じます。
モラルハザードについては、「国から取れるものはとっちまえ」とか「ばれなきゃいい」といった感覚だったり、「お金はたくさん欲しい」という欲に起因しているわけで、人間である限り避けようのない面が強そうな気がします。
「うまくいったな、しめしめ」と思って国が用意したお金を吸い取って喜んでいる人たちは、それが自分たちの税金から構成されている自覚がない、あるいは希薄な人が多いだろうし、自覚している人は「元取っているよ」なんてしたり顔しているかもしれません。そのツケを自分たちの子供が背負わされていることに思いが向かないんだろうなぁ。。
喫煙者のマナーが社会問題になって、路上喫煙禁止、公共の場所での喫煙禁止、分煙への規制など、喫煙者にとってはかたみのせまい世の中になってきましたが、元は言えば喫煙者自身の行動が原因。
天に唾を吐くとはこのこと。
”緊急”ということで、国が手を差し伸べた融資も1兆円が回収不能らしい。もちろん事業はやってみなければわからないものだから、精一杯やってそれでもだめだった、というケースはあるでしょう。それは仕方がない面があります。
でもねぇ、この融資でいろいろなモラルハザードがあったであろうことを本書でも紹介しています。
ここは、ルールや仕組みで縛りをいれなければ管理は難しい。
審査、管理システムを改善していくにあたってのキーは、透明性、ではないかと。
たとえば持続化給付金や助成金の申請では、毎年法人税を申告する際に財務情報を提出しているので、法人番号と財務情報が税務局だけでなく、各省庁と連携することで、申請側は申請業務を、受け取り側は審査業務をある程度簡素化することが可能ではないかと。
個人ベースの給付金であれば、源泉徴収状況、確定申告状況が各省庁と連携していると、給付金の支給の自動化もある程度可能になりそうです。マイナンバーカードは本来そういったことに寄与できるインフラになりうるはずなんですよね。
また税金を投入した企業、団体、自治体の財務状況を公開するのも、荒治療ですが効果を期待します。監督部署の目が届かないところは、市民による監視・管理があることで、ある程度の不正を防ぐことは可能ではないか、と。
いずれも概念レベルなので、実装となると多くの課題があるので容易ではないことは百も承知ですが、酷い実態があることに気づかせてくれたという意味で、本書の役割は大きいと思います。
たった1冊の本にまとめていますが、複数のテーマについて扱っており、「1次情報でないと信ぴょう性に欠ける」というジャーナリストとしてのポリシーをもっている姿勢からも、真摯に取材活動を続けてきたのでは、と想像します。
国防については他国への秘匿という要素も必要なため、ある部分についてはブラックボックスもやむを得ない面もあるかとは思います。
ただ、もっと広く税金の使われ方、という観点でいえば、もっとオープンにすることで改善される内容がかなりありそうだということを本書から感じます。
本書で指摘されていた「基金の乱立」について、つい先日河野大臣から全面見直しの方針がでました。
本書を読んだばかりなので、タイムリーな話題。税金の使い方の見直しにつながる表明でもあり、こういう活動は評価したい。抵抗も強いだろうから、簡単には進まないと思われるけど、メスをいれてほしい。
一方で、”減税”は「余った税金を還元するのではなく、原資が存在していないため、借金をする必要がある」という鈴木財務省の発言は驚いた。
”減税”の大義名分を失ってしまったわけだ。これは岸田政権にとってもキツイのでは。
閣僚などの給与アップは、それ自体は問題となる話ではないけど、お金の使い方に疑問を呈する流れになってしまって、本来問題にならないはずだった給与アップの話がからめられてしまって面倒なことになっているように見えます。
私よりはるかに優秀で、思慮があり、情報も持っている人たちが政治家、官僚として活動しているので、私が思っている世界のもっと外側にいろいろな事情があるであろうことは、そんなに外れていないとは思います。
第二次大戦以降、戦争をしなかったことは最大の功績と思いますが、260兆円を超える借金による将来への負債は、平和と安全という無形の財産の代償なのだろうか、と勘ぐってしまいます。
我々国民の関心を高めるのも自浄作用に貢献できると思います。
そのためには、税金や国政について学ぶ機会をいろいろなところで盛り込んでいくことも、最終的には税金をよりよく利用する流れに寄与するのかな。
いろいろ考えさせられる本でした。