今回読んだ小説はこちら。
図書館で「なんかないかなぁ」と本棚を眺めていて選びました。
図書館でなんの目的もなく本を眺めているのもまた贅沢な時間の使い方です(^^)いろいろな本のタイトルが目に入ってきて「こんな内容かな」なんて想像をふくらませるのもまた楽しいものです。
高杉良の作品はまだ前職にいた時代によく読んでいた作家で、10冊以上本棚に並んでいた気がします。退職して引っ越すときに全部古本屋に売ってしまいました^^;;
実話をベースにした経済小説で高杉良は第一人者の1人と言っても過言ではないでしょう。
「ワタミ」で有名な渡邉美樹を題材にした「青年社長シリーズ」、「まるちゃん」の東洋水産の森和夫をモデルにした「ザエクセレントカンパニー」など代表作は数しれず。
その特徴は、「実名」で実在の人物が登場する作品が多い、ということです。
なのでとてもリアル感を感じる小説として経済・企業の裏側を見るような楽しさがあります。
真山仁、黒木亮、江上剛といった作家も負けず劣らず実話をベースにした面白い小説を数多く発表しており、この手の小説は私の好みのジャンルでもあります(^^)
さて本小説の舞台は昭和56年(1981年)石川島播磨工業(以降”IHI”とします)。
外販ソフト部門を率いていた碓井優が上司に食って掛かるシーンから始まります。
当時コンピューターを使ったシステムを外販していたIHIですが、銀行から派遣された下山専務によって外販ビジネスからの撤退を決定します。
すでにシステムを導入している顧客への姿勢や、撤退理由について納得のいかないリーダーの碓井優は、IHIを抜け出して新会社を作ることを画策します。
IHIの造反でもあり、造反側とIHI側との駆け引きやドラマが描かれています。
スポンサーとして登場する「フィクサー」熊取谷稔(いすたに みのる)も実名で登場します。
本小説は最後には碓井優がコスモエイティという会社を立ち上げて、成功物語として終わっています。
日本における今で言うベンチャーの草分け的な存在であったコスモエイティですが、その後買収などを通じて精力的に事業拡大をし順調に伸びていくものの、1991年にセコムグループ傘下に入り、1993年セコム情報システムと合併してその暖簾を下ろすことになります。
創業の立役者であった碓井優は1990年会長に退き1991年に退社。翌年株式売却に伴う脱税の容疑で告発されます。
石川島播磨工業元社長でその後NTT初代総裁となり、リクルート事件で逮捕された真藤恒は碓井優の師匠筋になり、真藤恒がリクルート事件で収監されていたときに保釈金を用意したのはこの碓井優だったそうです。
またコスモエイティの立ち上げ時にスポンサーとなった熊取谷稔(いすたに みのる)は、当時ゴルフ事業で大成功をおさめ、アメリカのペブルビーチゴルフリンクスを買収した人物でもあり、政財界に大きな人脈をもつ「フィクサー」的な存在だそうです。
IHIからスピンアウトするその流れはとてもドラマチックで、この小説も一気に読んでしまいましたが、その後の流れを見るとなかなか評価が難しいという印象もあります。
それでも当時の時代(昭和56年といえば、電話は黒電話時代ですし、家庭用コンピューターといえばカセットテープにデータを記録して1行だけの画面に表示をするようなおもちゃみたいなもので、まったく一般には認知されておらず、また年功序列で終身雇用が当たり前だったこともあり転職自体がネガティブに捉えられる時代でもありました。)を鑑みると、碓井優を始めとしたスピンアウト組は、かなり時代を先どった行動をとっていたんだろうな、と思います。
いつの時代でも、時代の先を走る人たちはとかく社会や多くの人たちに受け入れられないという時間を過ごすことになることが多いですね。
その時の”常識”と言われる、一種の固定観念からの逸脱に不安感や違和感、嫌悪感を感じるからだと想像します。
かくいう自分もそういう面があると思いますし(^^)
だからこそ、違和感を感じる突拍子もない事を、少しでも何か受け入れようという姿勢があれば、時代の先取りの動きを少し感じることができるかもしれません。
経済小説、企業小説は、普段見えない裏側を見させてくれる楽しさがありますね。