今回の課題図書はこちら。
個人的にはこういった「舞台の裏側」系のドキュメンタリーが好きな方で、「フィクサー」というこのタイトルはなかなか惹かれました(^^)
フィクサーといえば、「黒幕」。
どこの世界でも表に出ずに裏側から人を操る存在はいるもので、私が思い浮かぶ日本のフィクサーは、児玉誉士夫、笹川良一、安岡正篤という名前。
古くは、平安時代末期の信西とか、徳川幕府初期の天海などもそういう存在だったかもしれません。
まあ、表にでないので本当にそうなのかどうかは、確かめようがないですけどね(笑)
ということで本書はどんな感じであったのか。
旧国鉄時代に「分割民営化」を推進する「国鉄改革三人組」の1人として活躍し、右派思想による国家観を礎としてその後の政治に大きな影響を与えてきたことが取材を通して浮き彫りにしています。
日本の右派の総本山とも言われている日本会議という団体の中心人物の一人で、反共をかかげ、日本は強く自立した国であるべきという国家観をもち、”国益”を最優先すべきという思想をもっていたそうです。
旧国鉄の「分割民営化」には、当時国内最大の労働組合組織である国労を潰すことで、国労が指示していた社会党の勢力を削ぎたかった当時の自民党トップと共鳴。
だからといって政治家とずぶずぶの関係かといえば、国鉄時代に政府の干渉によって経営が悪化したと信じていたことから、むしろ政治家とは原則距離を置く姿勢をとり、数少ない信用をおいた与謝野馨からの紹介筋しか付き合いがなかったようです。
一方で東大法学部繋がりで優秀な官僚とは深い絆を保っていたという。
自分が信じる”良い国”を目指して、ときの権力をコントールすべく、優秀な官僚仲間を内閣官房に送り込み、メディアの総本山であるNHKを支配しようとその人事にも介入していたという話は、なかなか刺激的でした。
新幹線の高速化、のぞみの大増発、品川駅オープンなど、JR東海という企業を大きく成長させてきた葛西氏の経営手腕はおそらく卓越していたであろうし、まれに見る経営者だったであろうと思われます。
その結果それなりの名誉も経済的恩恵もあったであろう当人を動かしていたのは「愛国」という気持ちだったことが本書でも描かれています。
”儲けたい”とか”権力を握りたい”という自欲を満たすことが目的だったわけではない、というのが、なんとなく違ったフィクサーの印象を与えているように感じます。
それが故に、”こうだ”と信じた力のある人間が走り出すと、”こうでない”ことを否定していくため、”こうでない”と思う人達にとってはかなり困った存在にもなりうる危惧も感じました。
取材に基づいているので客観的な内容が多く、国鉄の清算の裏側や、NHKが意外と政府から煙たがられていたことなどを知ることができて、ワタシ的にはとても興味深く楽しめたのですが、読書会メンバーの中には、「当人(葛西氏)の人物像にもう少し深く切り込んだ考察があってもよかった」という物足りさなを指摘する声もありました。
葛西氏は2022年5月に間質性肺炎という難病が原因で亡くなったそうですが、奇しくも先日料理の鉄人で有名だった陳建一氏も同じ病気で亡くなったんですね。