今回の課題図書はこちら。今の三井住友銀行の前身にあたる旧三井銀行の起源にあたるのが、この三井大坂両替店。
副題にあるように「銀行業の先駆け、その技術と挑戦」の内容を、資料を分析してまとめた本です。
三井大坂両替店は1691年に開業したそうです。
”両替商”ですが、この本を読むとその実態は現在の銀行そのものです。
・お金を集める
・お金を貸す
・貸したお金に利息をつけてそれが利益になる
・貸したお金の担保をとり、回収できなくなったときの保険をとる
現在の銀行は
・預金者あるいは預金法人から、預金という形でお金を集める
・ローンや融資などの形でお金を貸す
・ローンや融資につける利率による利息が利益のなる
・ローンや融資には、購入した家や企業の資産などを担保とする
ですよね。
三井両替商の場合、お金は「幕府のお金」だったところが特殊なところ。
つまり、幕府が全国から集めた品々を大坂でお金に換金して江戸に送るのですが、幕府自身がやると手間とコストがかかる上に、途中で盗難に合うリスクもあります。
そこで両替商に送金を委ねていたそうで、三井両替商がその役割を担っていたそうです。
幕府から預かったお金は90日以内に江戸に持っていけばよく、その90日という猶予をいかして他の人に貸し付けて利息をえることで成長した、といいます。
本当はルール違反なんですが、幕府も黙認していたこともあり、三井両替商はある意味幕府のお金を使って儲けるという特権を得ることに成功しました。
この本ではこのように、三井両替商がどうやって事業をまわしていたのか、信用調査をどうやっていたのか、担保をどう考えていたのか、どんな組織だったのか、どんな人達が働いていたのか、どんな人達がお金を借りようとしていたのか、などなど、実に具体的かつ詳細にまとめられています。
江戸時代に生きていた人たちの生活の様子の一旦を垣間見るような気持ちになり、おそらく資料を読んで分析する作業は、大変ながらも研究者たちにとっては、とても楽しい作業だったんではないか、と感じます。
人口減少問題、”社員”のモチベーション高揚など、今に通じる課題が当時もあったことが本書から伺え、いつの時代も同じような課題に腐心していたんですね。
今と江戸時代。調べる、という行動は今ならネットを使うのでしょうが、当時は”近所への聞き込み”が情報源になっていたようです。
今の防犯カメラの役割を”近所の目”が担っていたんですね。
下手なことをすればすぐ近所に広まってしまう^^;;
デジタルに対して超アナログと、手法は大きな違いはあれど、当時も「お金を貸すときは”人”をみて判断すること」を基本としていたといい、中身は普遍的なんだな、ということが本書の冒頭で語られています。
もう少し若いときまでは、戦国時代や幕末といった時代に目立った人物たちに興味が言っていましたが、ここ最近は、こういった”当時の生活”といったことに関心がいくようになっていたことに気づきました。
どんなことを考えていたんだろう、どんなことを夢見ていたんだろう、などなど。
そういう観点でいうと、本書はとても興味深い本でした。