今回の読書会の課題図書はこちら。
ちょっと毛色をかえて、ライトなノンフィクションもの。
本書は3つのノンフィクションと7つのショートエッセイで構成されています。
本書のタイトルになっている「世にも奇妙なマラソン大会」は3つあるノンフィクションの1つ。
何気なしにネットで西サハラで行われるマラソン大会の存在を知り、マラソン経験もないのに好奇心だけで申し込んでしまい、その後の行動を軸にして、関わってきた人たちや社会状況を楽しく伝えてくれています。
この本の魅力は、やはり作者の”視点”と”軽妙な描写”でしょうか。
以前読んだ「バッタを倒しにアフリカへ」に通じる雰囲気を感じます。
両者に通じるのは、「明るい」「能天気」「くじけない」「好奇心の塊」(笑)
(SNSでは参加した人の投稿をたまにみますが・・・)
西サハラってどこ?と思われる方、ググってみましょう(^^)
場所は、アフリカ西部で、モロッコ、モーリタニア、アルジェリアと国境を接するアフリカ北西の沿岸部にある地域です。
1884年にスペインの植民地になり、1963年にはモロッコとモーリタニアがそれぞれ領有権を主張。1976年スペインが撤退するとモロッコが「再統合」し、アルジェリアが支援している「西サハラ民族解放戦線(ポリサリオ)」との間で戦闘が始まり、その後も溝は埋まっていません。
場所はここです。Google mapでもモロッコとの境は点線になっており、解決されていない状況であることがうかがえます。
本書は、マラソン大会というものを通じて何気なくこういった国際情勢についても触れられていて、ノンフィクションらしい現実感を感じます。
2つ目のノンフィクションは、ブルガリアでゲイの紳士との不思議な交流。
3つ目のノンフィクションは、偶然インドに密入国してしまったために強制送還され部落リストにのってしまったインドに再入国を図るために、奥さんと一旦離婚しようというとんでもないことを考えた著者のドタバタ劇(笑)
いずれも単なる体験記ではなく、ブルガリアの生活風景や、入国にまつわるルールなど、「へ〜そういうことなんだ」と学びになったりする要素もあるのが特徴。
7つのショートエッセイが後に続きますが、印象深かったのが「謎のペルシャの商人」というエッセイ。
イラン人(もともとはペルシャ人と呼ばれていた)の商人と日本人の著者とが英語で話をしている。当然のことながら双方にとっては「第二あるいはそれ以下の外国語」です。
ペルシャ人はいいます。
「なぜ我々は英語で話をしているのか。それは英語が国際言語だからだ。世界の人が意思を通じさせるための言語だ。アメリカ人とイギリス人の英語がわからない?それは彼らのせいだ。彼らの喋っている言葉は”方言”なんだ。アメリカ人はアメリカ方言、イギリス人はイギリス方言。それは世界標準ではない。我々が今話している英語こそ、世界の誰でも理解できる世界標準の英語なんだ。アメリカ人やイギリス人が我々を見習う必要はあるが、その逆はない」
著者は「尾てい骨から突き抜けるような感動を覚えた」と評していますが、私もこれはなかなか興味深い。(^^)
著者は「賢者に違いない」と言っているが、読者からみたら胡散臭いと感じる部分も無きにしろあらず。
そんな微妙なバランスが本書の面白さの根っこにあるように思いました。
気持ちが明るくなる、そんな本です。