48歳からの挑戦

47歳で脱サラ、48歳で起業したおじさんの奮闘ぶりをご紹介しています

読書会〜春宵十話

 

今回の読書会の課題図書はこちら。

 

著者の岡潔は、数学界では著名な学者の1人。

 

数学者として活躍する一方、多くの随筆も残しており、本書はその一つ。

 

本書をまとめた理由を著者ははしがきで「近頃のこのくにのありさまがひどく心配になって」と記しています。1963年のころです。

 

著者は1901年生まれで日露戦争以降の世界を生きてきた人物。第一次、第二次と2つの大戦を経験し、終戦から大きく価値観が変わった世の中をも生きてきた人物。

 

日本的な情緒や宗教観、美的感覚などについて述べた短編がまとまっていますが、総じて著者が最も危惧していたのは、当時の教育だったように見受けられます。

 

本書でも義務教育の内容について、かなり苦言を呈しており著者独自の視点で、こうあったほうがいい、ということが述べられています。

 

 

 

いいこともそれなりに言っているんだけど、なにか刺さらないな、と読書会で話をしていました。「どんな人に読んで欲しいと思ったのだろう」メンバーと一緒に考えてみました。

 

学校の先生、特に小学校の先生。それから幼児から小学生を持った親。すなわちこれから日本がよくなっていくためには、それを支える人たちの頑張りが必要で、それはすなわちこれからの教育が最重要課題であって、その教育を直接担う人たちに最も言いたかったのではないか、というのがその根拠。

 

戦後20年も経っていない時代、戦前、終戦アメリカによる占領、復興と劇的に社会が変化してきた時代でもあり、教育もその一つだったと思います。

 

急激な変化のなかでアラがたくさん見えてしまうのもやむを得ない時代でもあるかな、とも感じます。

 

 

 

一方、本書冒頭のはしがきで、著者は「人の中心は情緒である。」という文章から始めています。

 

本業の数学は、「自らの情緒を外に表現することによって作り出す学問芸術に一つ」としています。

 

この「情緒」という概念がキーワードの一つで、「情緒の中心の調和が損なわれると人の心は腐敗する」と述べているように、日本の文化を培ってきたのは「情緒」であるという見解にたっているところは、どこかなるほどと思わされるところがあります。

 

「情緒」の定義を調べてみると

① おりにふれて起こるさまざまなおもい。喜怒哀楽などにつれて起こる複雑な感情。

② (emotion の訳語) 心理学で、感情経験の一種。喜び・怒り・悲しみ・恐れ・憂い・驚きなど身体的表出を伴う感情の動きをいう。

コトバンクより引用)

 

となっています。

 

なにか出来事に触れて生まれる感情、およびその感情の動き、ということですね。

 

神仏融合、武士道など様々な思想が混ざりあってできた独特な文化を形成した日本で、その根底にあるものの一つがある共通の「情緒」というのは、なるほど、それもあるな、と思わされます。

 

異文化が混ざりあってできたアメリカとは違い、単独文化で長く生活してきた日本においては、その「情緒」は複雑。

 

アメリカでは異文化同士が理解し合うためには、お互いの「情緒」に依存してしまうと対立を生みかねないから、「シンプル」な仕組みが必要で、「情緒」から離れた「ルール」を制定することで社会を形成しているのでは、というのが私の勝手な理解。

 

一方「情緒」に依存した社会は、「ルール」であるような明確な境界がないことがおおく、グレーゾーンがたくさん、そして多彩な幅をもって存在しやすいです。

 

このグレーゾーン、個々の感情のゆらぎや行動の変化といったものを吸収する役割があり、実はばらつきのある生活をうまく過ごす方法の一つと思っています。

 

実は私が運営するシェアハウスでは、かねてからできるだけルールを設定せず、マナーで対応しよう、と呼びかけています。

 

ときには我慢することもありますが、別の機会では自分のことで他人に我慢してもらうこともあり、お互いそれが許容範囲であれば、それぞれの個性を損なうことなく生活ができると考えているからです。

 

この考え、ある程度ゆらぎは吸収できますが、大きなゆらぎを吸収するのは困難です。他人の我慢の限度を越えることがあるので。

 

一方でルール化している場合は、ルールを守ればいいので、ルールの範囲内で突出することは許されます。

 

何か「平均的」「全体的」とよく揶揄される日本的感覚と、「実力あるものがのしあがる」という欧米的感覚との違いは、こういったところにも起因しているかもしれないな、とふと感じました。

 

 

 

読書会に合わせるために最後は一気に読んでしまったのですが、もう少し丁寧に読んだらこの「情緒」という感覚をもっと深堀りできたかもしれません。。。