本来は木曜日朝開催の読書会ですが、明日は月末で振返りなので、1日早く投稿させていただきます。
本書のタイトル「発酵文化人類学」とは、自称”発酵デザイナー”の小倉ヒラク氏が、「発酵」に関わる仕事をしていたら、大学時代に学んでいた「文化人類学」に似ているぞ、ということで2つを結びつけた造語。
26ページにもわたる「はじめに」において、著者は本書のことを
デザイナーの「手」で全国津々浦々歩いて拾ったものを、発酵スペシャリストの「目」で観察し、文化人類学者の「アタマ」を借りて掘り下げたフィールドノート
(本書より引用)
と説明しています。
そしてさらに「本書に期待していいこと」「期待しちゃダメなこと」も丁寧に紹介してくれています(^^)
期待していいこと
・発酵文化の面白さがわかる
・同時に文化人類学における主要トピックスがなんとなくわかる
・人類の期限や認知構造についてそれとなく見識が深まる
期待しちゃダメなこと
・発酵について体系的に学ぶ
・文化人類学について体系的に学ぶ
・発酵食品の健康機能や美容効果がわかる
(以上 本書より引用)
読んでみると・・・確かにそうです(^^)
私自身体調を考えるにあたって、腸内を健康にしたいという意識から発酵食品にとても関心があったことや、日本酒などのお酒も好きなことから、本書はかなり楽しく読ませてもらいました。
本書は、発酵や文化人類学について解説する内容がもりだくさんありますが、「今でいうと」という具合にたとえを入れることでざっくりとしたイメージを作ることを助ける文章で構成されています。
「これはこういうことだぁ、どうだぁ、わかったかぁ」的な大上段からの講釈をたれるのとは真逆で、「みんなが知っている世界なら、こんな感じ」みたいに寄り添ってくるようなスタンスなので、発酵と文化人類学に親しみを感じられる気がします。
目に見えない微生物との共生によってヒトは命を育んでいて、そこに発酵という技術はその共生に大きな役割を担っていること。
発酵とは、過剰サービスの連続らしい。
つまり10円もらったら20円のお返しをするような世界なんだそうな。
文化人類学者レヴィ=ストロースは、「熱い社会」と「冷たい社会」という概念を提唱したそうです。
「熱い社会」とは「今日よりも良い明日」を目指し、現状を批判的にみて改良と変化を加えることが人の営みの原動力になっている社会、すなわち、今の社会。
一方「冷たい社会」とは「円環的に循環する社会」で、同じサイクルが永続することを目指し偏りが出た場合はリセットする仕組みが制度化されている社会。でもこの「冷たい社会」は、未開文化のパラダイムと言われているが、実はあらゆる文化の基本的なオペーレションシステムとレヴィ=ストロースが見抜いたといいます。
ここ、実は発酵の仕組みと重なるところが多いらしい。
このあたりの視点や著者の解説は、今の技術革新と環境問題、伝統と革新、といったともすれば対立構造になってしまう課題に一石を投じるように思えます。
恐竜の時代は約1億9千万年続きました。
人類が誕生したのは700万年くらい前。
我々の種族であるホモ・サピエンスは30万年くらい前に誕生。
農耕が始まったのは最新研究だと1万年〜2万3千年前くらい前に誕生したらしい。
産業革命は260年前。
初めてライト兄弟が空を飛んだのは120年前。
暗号エニグマの解明のためにアラン・チューリングが今のコンピューターの源になるマシーンを作ったのが80年前。
変化の早さに、ヒト自体が追いつけなくなってきている印象があります。
その一方で、技術の発達があったから今自分が認識できていることもたくさん。この発酵の技術もその一つ。たくさんの命が救われているのも事実。これは大きい。
それでも、進化や改良もいいけど、ちょっと早すぎね?と地球がちょっとフラストレーション溜め始めているようにも感じる私(^^)
あえて速度をゆるめて立ち止まるようなことで安らぎを感じるのは、そういった感覚からかも。
社会主義だとか平等主義だとか、そういうイデオロギーとは全く関係なくて、自分の体との対話から感じることなんですよね。
昔読んだ「バッタを倒しにアフリカへ」に感じた楽しさを本書にも感じました。
発酵、楽しそうだなぁ。。。