今年最後の読書会の課題図書はこちら。
都知事選挙で注目された安野貴博氏著作の、近未来を舞台にした小説です。
完全自動運転が実現された近未来で起こった誘拐事件が舞台となのですが、身代金を要求するわけではなく、なんと誘拐した人物を殺人犯として立証する、という奇妙な展開です。
主な登場人物は
・自動運転アルゴリズムの開発会社社長
・自動運転アルゴリズムを搭載した自動車を製造販売する会社の社長
・事件に関わる警察官とその上司や同僚たち
・ITプラットフォーム会社の女性社員
この人たちがどう関わって、どう展開していくのかは、ネタバレにつながりますのでここでは割愛します(^^)
著者の安野氏はAIのエンジニアだけあって、専門家らしい視点で、自動車の完全自動化が実現された世界はこうかもしれない、という情景を丁寧に描いてくれています。
そしてそこに、ITインフラやこれから来るであろうAI技術が生活インフラになくてはならなくなったときにどんな課題がでてくるのだろう、という想像力を駆り立ててくれるような舞台を見せてくれています。
車の自動運転が研究されて久しく、現在アメリカではGoogleなどが無人タクシーの運転をすでに事業化していますが、完全自動運転にはまだ至っていません。
自動車の自動化には、レベルが1から5まで5段階が設定されています。
https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf
ざっくりレベル2までは人の介在が必要で、レベル3から自動運転の要素が強くなります。
日本ではまだほとんどがレベル2までのレベルで、Googleがアメリカで事業化している「ウェイモ」はレベル4と言われていてかなり先行しています。
この小説は「レベル5」という完全自動運転が実現されている社会で、それが2028年と設定されていますが、フィクションの話とは思えないくらいリアル感を感じます。
少子高齢化が進みエッセンシャルワーカーが不足する社会を迎えている日本では、物流を担うトラック運転手や、公共バス、電車などの自動運転の実現は、大きな助けになることが期待されている技術だと思っていることが、私の印象にバイアスをかけているからかもしれません(^^)
今関わっている医療DXの世界でも、新しい技術を開発することはもちろん重要なのですが、それとともにAIが学習するデータの扱い方についてルールやそのルールの基盤となる倫理的な基準を策定することも大きな課題となっています。
自動車は作れても交通ルールがなければ大変危険な物体となってしまうのと同じです。
この小説では、新しい技術を導入するときのルール作りを忘れてはいけないという注意を促している面もあるように感じます。
技術があって、それを活用するルールがあり、そして社会実装してサービスを提供し続けるためには、事業として成立する構造が必要となります。
技術が世の中で日の目をみるためには、たくさんの課題を解決していくことが必要であることを、我々自身も理解することが、新しい技術を受け入れていく土壌として必要ではないかなぁ、とこの本を読んで改めて感じた次第です(^^)