先日本屋さんで手にした2冊の本のうちの1つがこれでした。
故田中角栄元首相(以降”田中”とする)が逮捕された時、小学生だった私は「首相のような人が捕まってしまうんだ」と子供心ながら衝撃をうけた覚えがあります。
その後メディアで流される、”金と政治”の仕組みを作った首謀者として、そして院政のごとく影響力を長年行使してきた人物として、長年私の中では、かなりの”悪役”でした(^^)
それが20年くらい前だろうか、小泉純一郎が首相から降りて、安倍晋三が首相になるも体調不良(表向きは参院選敗北の責任)で辞任。それから福田康夫、麻生太郎と引き継がれるが、政策がイマイチで自民党の支持率が下落し、リーマン・ショックもあって、ついに当時の民主党に政権を奪われます。
しかし、期待の政権交代も東日本大震災での処理や「二番じゃだめですか」で有名な仕分け作業などで経済が低迷。2011年には株価は日経平均8,400円程度、為替も1ドル75円という超円高。
そんなときに、「ビジョンを持った強いリーダー」を求める雰囲気がなんとなく醸し出されてきて、再評価されるような見方がでてきたのが田中です。
「日本列島改造論」をうちたて、日本全国をつなげるインフラの整備に力を入れます。東北新幹線、上越新幹線はじめ全国に新幹線を広げる構想、高速道路を広げる構想はこのときの提言です。
今の日本の交通網インフラを築いたといっても過言ではないじゃないか、という印象さえあります。
そんな田中が大きく関与されたとされるロッキード事件について、公開されたアメリカの公文書をもとに、この事件はどういう事件だったのかということを紐解こうとしたのが本書です。
実に丁寧に「公文書によると」というスタンスを崩さず、ロッキード事件の流れを実によくまとめています。
2023年に「ロッキード」を刊行した真山仁氏も本書のあとがきを寄稿しており、著者奥山氏の取材姿勢を高く評価しています。
これを読むと、田中がいかに当時のアメリカ、特に大きな力をもっていたキッシンジャー(元国務長官。ニクソン、フォード大統領時代に懐刀としてアメリカ政治に大きな影響力を発揮していた人物。漫画ゴルゴ13でもキッシンジャーをモデルにしたと思われる人物が何回もでてきます)には、かなり嫌われていた模様。
本書によると「田中はあることないことをメディアにリークしている」から。アメリカの国益を損なう恐れのある人物とされていたようです。
では長い事いわれたいた「田中はアメリカに消されたのか」という陰謀論については、かなり明確に否定しています。
ロッキード事件が発覚したきっかけが、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件がきっかけだった、とか、当時アメリカ政府がロッキード事件に関与した日本人の高官の名前を公表をかたくなに拒んだ背景、とか、フィクサーとして暗躍していた右翼の児玉誉士夫(ロッキード事件で逮捕されるも判決前に死亡したたため裁判は取りやめになった)をかなり嫌っていたこと、など、公文書によって明らかになる事項は、なかなか読み応えがあります。
そして1970年代から80年代にかけての国際情勢におけるアメリカの姿勢というものが、少し垣間見れるようで、こちらもなかなか好奇心をくすぐります。
当時の世界情勢といえば、資本主義の西側陣営と共産主義の東側陣営の対立が最高潮に達している時代。同じ共産圏でも中国とソ連は対立しており、資本主義はそこにつけこんで、中国との国交回復が進んでいった時代でもあります。
日本はまだ為替は固定相場で1ドル360円という超円安。その円安を武器に製造業の輸出を伸ばして経済成長をしていた時代です。
時代によってそれぞれの思惑は揺れ動きます。
そんな時代のうねりみたいなものも本書から感じ取れるかもしれません。