今回読んだ本はこちら。
デビュー作「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞受賞を受賞した直木賞作家・澤田瞳子の第二作です。
今回の作品は第32回新田次郎文学賞を受賞しており、澤田氏の活躍ぶりが伺えます。
時代は藤原道長ー頼通が関白となって藤原氏全盛を誇った平安時代中期。
宮城(きゅうじょう:今の皇居)の中は、権力と業と華美な世界が繰り広げられる一方、一歩外にでれば京都といえども明日の食事にも事欠く世界が広がっており、強盗が我が物顔で活動するような物騒な世界。
藤原頼道が肝入でたてた別荘、今で言う平等院の開眼供養の日、天才仏師「定朝(じょうちょう)」が世話になった比叡山の僧「隆範(りゅうはん)」を思い出すシーンからこの小説は始まります。
この小説の副題となっている「仏師・定朝」は実際に存在した仏師で、鳳凰堂の阿弥陀如来を彫ったことで有名です。
その定朝がまだ10代半ば、その天才仏師ぶりを隆範が知るところまで遡ります。
きらびやかな上流社会と、貧しい市民との隔絶された世界。
権力欲と欲望がうずまく宮城(きゅうじょう:今でいう皇居)の中で複雑にからみあう人間関係。
本来ならまず出会うことのない官位をもった僧侶と、市井の人々とともにいる一人の仏師との出会い。
スポンサーでもあり、内容の理解ができる貴族を相手にすることで、仏教としての道を広めていこうとする僧侶。
一方で、どんなに飢えた人にも、病気になった人にも仏像はなにもしてくれないではないか、と仏像崇拝に疑問をもつ仏師。
そこに天皇後継問題を背景とした藤原氏一族の争いが絡んできます。
さまざまなワガママや業がぶつかり合い、多くの人が傷ついていくのですが、そういう中でも「心が救われる」とはどういうことかを模索していくさまが、定朝や隆範らの行動を通して描かれています。
たくさんの登場人物がいるのですが、著者の澤田瞳子氏は実にたくみに、細かく演出しているように感じます。
そして、デビュー作「孤鷹の天」でも感じたのですが、舞台が今から1000年以上も前にもかかわらず、小説の中身が現代のように親しみやすく、登場人物に感情移入をしやすいんですね。
そして現代に通じる生き方もちらちらと垣間見ることができます。
これはなかなか傑作でした。

こちら、藤原家と皇族、登場人物の相関がわかるようにまとめたものです。
この小説で重要な登場人物といえば、主人公である定朝、定朝を見定めた隆範、そして定朝らに多大な影響を与える中務(花山天皇の娘で、彰子に使える女房)ですが、隆範がこの小説にあるような高階氏の一族であるのか、また中務のような人物が花山天皇の皇女にいたのかは、史実上は確認できませんでした。
なので、このあたりは小説としての脚色が入っているかもしれません。
でも他の人物はほぼ史実と同じなので、リアリティ感がすごいです。
この高階氏は天武天皇の血筋で、「孤鷹の天」で良いキャラクターででてきた磯部王の末裔です(^^)
権力闘争からうまく逃げることで、主役ではないけど平穏な環境を確保しようとしている様が、なんとなく通じるものを感じます。
それにしても澤田氏の作品は歴史小説好きな私にとっては、とてもおもしろい(^^)
しばらくハマりそうです(^^)

